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憮然と言い放つ男。なんだか何時ぞやに味わったことのある苦々しい思いがよみがえる。これはこっちが折れるまで押し通すパターンだ。
『…じゃあ、止めるけど…。暴言吐いたって怒んないでよ?』
『んなことぐらいでこのオレが怒るかっての。んで、お前、名前は?』
『え、今更…あゴメン、えーと、末廣結悟。そっちは?』
一種の諦めと共に言う。
『あ?オレか…名前なんざもう覚えてねぇな。結悟、つけてくれ。』
――いきなり大役っ?!
つけてくれ、とぽいと言われたがしかし名前と言う大事な、純粋に大切なものをそう簡単に決めてもいいのだろうか。
『おら、さっさとつけろ。』
『なんだその上から目線。…ちょっと待てって。』
――えーと、竜。元土地神。いやいやそれはいいか。えー、竜だから…水神?水色…みず…あ。
黙りこくって考えること数秒。ふっとひらめくものがあった。
『結構単純だけど、いい?』
『おー、どんと来い。』
なんだか名前なら何でもいいとでもいうような雰囲気になっている気がするが気にしないでおく。
『えー、じゃあ…瑞月(ミヅキ)』
水としるしの意味がある“瑞”に、結悟の中での水神というか竜神のイメージから“月”。
『ミヅキ、瑞月、な…。』
気に入ってくれたのか、しきりに頷きながら繰り返している。その光景になんだか微笑ましさをおぼえ、ふっと笑みが零れる結悟。瑞月はそんな結悟にふと向き直ったかと思うと、
『…は?』
結悟の前に片膝をつき、頭を垂れた。
『我が主に、魂ある限りの忠誠を誓う。
惜しむことなく我が通力をもって尽くすことを誓う。
主の影に従い何処であろうとも姿を現し力になることを誓う。
主から賜りし瑞月の名をもって、ここに誓う。』
謳うようにそう言って、瑞月は結悟を見上げる。何か言わなければ。そう思った。
『…聞き届けた。』
しかし、咄嗟に出たのはたったその一言。しかし、それで十分だったらしい。
満足そうな顔の瑞月に、まあいいかと思う結悟だった。
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