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『そうこうしているうちに、オレは一人の男の手に渡った。それが稀代の陰陽師、安倍清明だった。アイツは天皇からこの厄介な髭を如何にかするように頼まれてたようでな、オレを手にするや否やさっさと封印っつって結界張って桐箱の中に閉じ込めやがった。
 まあ、オレももう面倒事はご免だったから大人しくしてたよ。』

 自嘲の笑みを浮かべて、男は座りなおす。

『そのうち時代が下って、貧窮に追い込まれた安倍家に売り払われ、世界各国を転々としていたがまたある時にある男の手に渡ってな。名は知らんが…姓は確かオリバンダーとか言ったな。そいつがオレを杖の芯に仕立て上げたって訳だ。
 ご丁寧な事にオレの力を押さえる為にヤドリギと絡めてしなやかすぎるくらいの柳で閉じて、俺が封じられていた桐箱を杖の箱に作り替えてな。
 その状態でももちろん意識もあったから世界の大体の流れだって知り得た。』

 そんなとこだ、と肩をすくめてみせる男。

――なんつーか、壮絶…

『でも、じゃあ、なんでアタシの式に下ったんですか?
 アタシの中に素質はあったとしても、手順なんて踏んでないし、なにより…なんかもう、この世に関わる気が無かったみたいに聞こえるんですけど…。』

 本人は気付いていなかったかもしれないがこの男、微かにだが終盤は全てに疲れ切っているような顔をしていたのだ。

『なんだ、聡いなお前。式に下ったのはオレの意思だから手順なんかいらねぇんだよ。お前、杖持ったとき思っただろ。
 “別にこんなもんなくったって”って。』

 きらり、と牡丹色の眼が結悟を射抜く。

『っな、』

 なんで、とは言えなかった。それは男の言い分を肯定する言葉だ。

『いーって、んな気ィ使わなくてもな。別に怒っちゃいねぇよ。
 ただな、珍しい奴がいたもんだと思った。よく視てみりゃ陰陽師の血ィ引いてんじゃねぇか。こいつぁ面白いってな。』

 そう言ってからからと笑って見せる男。

『それは…身に余る光栄で…』

――あれ、でも…そうなったら魂が杖から離れて芯が無くなっちゃうんじゃ…?

 ふと思ったそれを男は感じ取ったのか、

『その辺は心配いらねぇよ。ヤドリギもそりゃ芯には向かないがだからってならないこともない。
 それにずいぶん長い間オレの通力を吸っていた所為でアレ自体にも魔力が生じてる。』

 何のことは無いと、さらっと言ってのけた。

『そ、そうですか…』

 ほっと息を吐く結悟。これでただの木の棒になられたら困る。

『おう。…つーか、んな事よりお前その取って付けたような敬語止めろ。』

『え、いや、だって一応位の高い存在だし…と思ったんですけど。』

『天から呪いを受けた時点で位もなんもねぇよ。止めろ。』

――ええー…


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あきゅろす。
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