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‐018‐

『お前、ほんっとに何も聞いてねぇんだな。』

『いや、聞いて無いって言うか、なんて言うか…』

 結悟は男に自分の境遇をかいつまんで話す。

魔法学校隠密乱入記 ‐018‐




『…と、まあそんなわけで。アタシはおじいちゃんが陰陽師どころか魔法使いだって事すら知らなかったということです。』

『ほー…あの狸め、おかしな奴だとは思っちゃいたが…』

 顎に手を添えて、くつくつと笑う男。その男の正面に結悟はちょんと正座していた。

『…それで、えーと、何で土地神のあなたがアタシの杖の芯なんかになってるか、訊いても?』

『ん?ああ、そうだな…長くなるぜ?』

『構いません。』

 すっと、居住まいを正す結悟。そんな結悟に苦笑しつつ、男が語り出す。

『あー、オレはまあ、日本の土地神で、ずいぶん永いことやってたんだが…いくら神っつったって、土地神はこの世の肉体を持ってる。つまり老いるんだよ。老いがありゃあ死もある。他の生物に比べりゃとんでもない寿命だがな。それでも終わりはくるんだ。
 んで、当たり前だがオレにもある時終わりが来た。来たっつーかそれがもうすぐそこに在ることを悟った。悟ったオレは天に申し出てちっとばかりの自由をもらった。どうせ死ぬならってな。死ぬまでのほんの数年の自由だ。』

 男はそこで一旦切って、息を吐いた。その目はどこかで見たような、そう、遠く過ぎ去った過去を懐かしむような眼だった。

『で、オレはそのもらった自由で世界を見て回った。実を言うとずいぶん昔っから自分の国以外の世界を見てみたいと思ってたんだよ。ま、んなこたぁ今はどうでもいいか。とにかくオレは世界を見て回って、色んな事を聞いて経験して考えて。
 そんでオレは死ぬのが惜しくなった。
 見れば見るほど、聞けば聞くほど、経験すれば経験するほど、この世界にはオレの知らないことが無限にあるんじゃねぇかって気がしてきてな。
 けどオレがどう思おうが何を思おうが、寿命は尽きる。そこでオレは考えた。死ぬのは肉体があるからで、魂だけなら老いも死も無いんじゃねぇかって。』

 男の顔が一気に自嘲に染まる。

『我ながら愚かな考えだった。けどそん時は名案に思えた。だからオレは肉体と魂を切り離して、魂をこの世に留められる形にしようとした。
 けどまあ、当然ながら天がんな事許すわけねぇんだよな。
 オレの魂は通力の源であった二本の髭を縒り合せて輪にしたものに封じ込められて、その髭が朽ちるまでそん中で身動きひとつとれずに存在し続けるっつー呪いを受けた。
 …勿論その髭には永遠に朽ちぬよう呪(まじな)いをかけてな。』

――半永久的な、苦痛…

 そんな結悟の心を見透かしたように、男は苦笑する。

『そりゃ最初は天を恨んだが、その状態でも生物に触れればそいつに憑いて、力をやる代わりにオレは世界を見られた。憑く相手によって同じ世界なのに見え方が全然違うんだぜ?ありゃあ面白かったな…
 けどこいつにも難点があった。オレの魂が強すぎるのか、憑いた奴は皆五年と持たず死んじまう。それでもオレを欲しがる奴は多くてな。ほとんどが人間だ…そいつらが次から次へと髭を手にして、次から次へと死んでいった。
 なにも魂の過負荷で死んだ奴ばっかりじゃねぇ。
 オレの通力欲しさに人間同士で殺しあったのさ。んな頃にはオレはもう何かに憑くことをやめてたっつーのによ。』

 やれやれと、馬鹿馬鹿しいと首を振る。
それは人間たちへ向けたものなのか、それとも…


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あきゅろす。
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