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 一瞬の後。とん、と足が絨毯に着いたのが早かったのか、膝の力が抜けたのが早かったのか。

『まあ、みっともないこと。たかが一日歩いただけですのに。』

『そう言わないでよミヤビ。トロッコに振り回されたりバカみたいに重たい荷物持って歩き回ったりしたんだから…。』

 よいせ、と絨毯に手をついて、起き上がる。広かった部屋が、さっき送った荷物で随分狭くなっていた。

『あー…。』

――こりゃあ、まずったな…

 ひゅ、と左手を払えば、それぞれがそれぞれに合った場所に収まる。ガラス瓶やらが割れていないと良いのだが。

『…あら?夕飯はよろしくって?』

『ん。もー…なんか、疲れた。』

 ふらふらとベッドに近寄り、そのままダイブ。頭の片隅でお風呂…と思ったが、次の瞬間にはもう完全に寝入ってしまっていた。

『まったく、もう…だらしのない子ですこと。』

 結悟はこれからの未来を知っているという。疲れたというのは、おそらく精神的なものが多いのだろう。

『ますます英治そっくりですわ。』

 周りにこれだけ気を遣い気を配れるというのに、自分の事には全くと言っていいほど頓着が無い。
 こちらに来てできた男友達との手紙のやり取りを見るに、無自覚でも天然でもなく、鈍い訳でもないのだが好意を厚意としか受け取れない。
 日本人の気質かと思ったが、それ以上に、

『きっと、貴方にもあるのでしょうね。』

 かつて乗り越えた過去に付いた傷…癒えることもなく、まだわずかに確かに痛みを伴うそれが、おそらくは己を“愛される”事の無い存在だと、周りの感情から一歩引かせているのだろう。
 彼女から聞くに彼女の世界はこの世界とほとんど変わらないと言うから、日本の、あの能力者と徒人との境目が曖昧な体制も同じであることは想像に難くなく。
 それは確かに良い部分もあるのだが、まだ世間を知らぬ幼子に意図せず悪い部分をまざまざと見せ付けてしまう事も稀では無い。
 …安倍という家名家系の庇護があった彼でさえ、あれほどの傷と闇を抱えていたのだ。
 ミヤビはするりと絵から抜け出し、結悟へ近付きシーツをかけてやる。

『それでも孫がこうしてここに居ると言う事は、英治は愛する者を見つけたということ。』

 そして、その子どももまた然り。ならばこの元の歳を考慮に入れたとしてもやけに落ち着きすぎている子どもも、やがては。


 あどけない顔で眠る結悟の、7年後の姿を想像してひとり微笑みながら絵の中へと戻るミヤビだった。





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