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‐016‐

 闇の帝王だとか、例のあの人だとか呼ばれる男のかつての杖。その芯である不死鳥の尾羽。その兄弟羽がハリーを選んだ。

――何とも皮肉なもんだ。

魔法学校隠密乱入記 ‐016‐




 赤と金の火花が飛び散り光の玉が乱舞する。思わず歓声を上げてしまうような、そんな風景が広がった。

「すばらしい。いや、よかった。さて、さて、さて…不思議なこともあるものよ…まったくもって不思議な…」

 そう言いながらオリバンダーは、ハリーの杖を箱に戻し茶色の紙で包む。

「不思議じゃ…不思議じゃ…」

 まるで呪文のように、何度も繰り返す。

「あのう。何がそんなに不思議なんですか。」

 ハリーの質問に、オリバンダーは答える。

「ポッターさん。わしは自分の売った杖はすべて覚えておる。全部じゃ。あなたの杖に入っている不死鳥の羽はな、同じ不死鳥が尾羽をもう一枚だけ提供した…たった一枚だけじゃが。
 あなたが子の杖を持つ運命にあったとは、不思議な事じゃ。
 兄弟羽が…なんと、兄弟杖がその傷を負わせたというのに…」

 ひゅ、とハリーが息を呑んだ音がした。

「さよう。三十四センチのイチイの木じゃった。こういうことが起こるとは、不思議なものじゃ。杖は持ち主の魔法使いを選ぶ。そういうことじゃ……。
 ポッターさん、あなたはきっと偉大な事をなさるに違いない……。
 『名前を言ってはいけないあの人』もある意味では、偉大な事をしたわけじゃ…恐ろしい事じゃったが、偉大には違いない。」

 偉大、なのだろうか。ヒトを殺し、自己満足に善がり狂ったとしか思えないあの男を、偉大というのだろうか。

「さて、では、スエヒロさん。次はあなたですぞ。」

「あ、はい。あの、アタシ両利きなんですけど…」

「ではよく使う方を。」

 言われて咄嗟に出たのは左手だった。ハリーと同じように、銀のメモリの巻尺が体のあちこちを計っていく。

「よろしい。では…そうじゃな、奇妙な縁をもつあなたには少し変わった杖を試していただこう…どうしてこんな杖を作ったのかわしにも解らん。今まで一度としてこの杖を振れた者もおらん。
 じゃが、もしかしたらあなたなら…」

そう言って、オリバンダーは一旦奥へ引っ込んだ。出て来た時には、木の箱を抱えていた。

「二十三センチ、リュウの髭にヤドリギを縒り合せ、柳で閉じたもの。主張が強く扱い辛い。」

「リュウ…?ドラゴンじゃなくて、竜ですか…?」

 差し出された箱に収まっている、一見木の枝にも見えるそれに手を伸ばしつつ尋ねる。

「さよう。東の果てに住まうという竜の髭じゃ。」

 杖を手に取る。すっと、神経が研ぎ澄まされるような感じがして、何の気なしに振ってみる。
 すると、今まで乱雑に放置されていたハリーの試した杖たちが元の場所に戻り、また積まれていた箱たちも整頓され、どこからか吹いてきた清涼な風が埃や蜘蛛の巣を攫っていった。

「ブラボー、素晴らしい!まさにあなただけのために生まれたような杖ですな。」

 オリバンダーは結悟の杖を箱に戻し、同じように茶色の紙に包みながら言う。

「大切になさい。」

 差し出されたそれをしっかり受け取り、代金を払う。ハリーも同じようにして、三人は店を出た。
 外では夕暮れの太陽が空に低く輝いていた。三人はダイアゴン横丁を、元来た道をたどって『漏れ鍋』に戻った。

「じゃあね、ハリー。また学校で。」

 いまだに浮かない顔をするハリーとハグリッドを見送り、結悟は一息つく。荷物を一纏めに床に置くと、鍵の魔法陣を呼び出し荷物を部屋に送る。
 そして、次の瞬間には鈴の音が残るだけだった。

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あきゅろす。
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