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――アタシには行動規制がかかってるから物語に多く関与は出来ないだろうけど…それでも…

 これからの、この7年間で出る死者は少ない方が良いに決まっている。
 少なくとも、同じ学校の生徒を見殺しにしたとあっては寝覚めが悪すぎるだろうから。

『…今考えても仕方がない。』

 少なくとも今は、まだ。自分に言い聞かせるように呟く。その呟きを拾ったカフが心配するように一声鳴いたが、結悟はそれに苦笑を返すだけだった。

――とにかく、今は朝ご飯食べて。明日以降は忙しくなるだろうから、今日中に質問しに行かないと。
  …ああ、フレジョからの手紙にも返事書かないとだったっけ。

 ふあ、と欠伸を零しつつ手紙を封筒に戻し、朝ごはんの準備のためにキッチンへと向かう。
 戸棚から食パンを取り出し、スライス。それにバターを塗ってトースターにセットしたらレタスを数枚ちぎって洗って皿に乗せ、昨日残しておいたポテトサラダをその上に盛る。
 一旦トースターを止めて、スライスサラミ・フリージングしてあるカットピーマン・同じく玉ねぎ・オリジナルのトマトソース・チーズを乗せ再び熱する。 作り置きのスープストックを調味し、溶き卵を加えて温め刻んだシブレットを散らす。
 ドライフルーツをいくつか刻んでヨーグルトと混ぜ、トーストが焼き上がれば朝食の完成だ。

 ちなみにいうと、結悟は料理には滅多に能力を使わない。使ったとしても、食材や調理器具を呼び寄せるぐらいである。
 何故かと訊かれれば、理由は実に単純明快。結悟自身が料理好きだからだ。

『いただきまーす。』

 律儀に合掌して食べ始める。もぐもぐとトーストを咀嚼しつつも考えるのは、汚れるといけないからと机の隅に追いやったノートの事。
 びっしりと文字やら記号やが綴られているが所々線で消していたり塗りつぶしてあったり赤色でチェックが入っていたり…と、かなりごちゃごちゃなこのノートは結悟の英語学習帳である。

――うーん、そろそろ新しいの買った方がいいかな…
  でももう少しで学校始まるし…

 そもそも、結悟は言語が理解できているが、それはあくまでも“音に対する理解”であって、聞こえた音に対して脳に、いわば自動翻訳機のような働きをさせているのだ。だから決して結悟には英語が日本語として聞こえているわけではない。
 視覚からの情報も同様にして、脳内で一旦英語として認識された後に日本語に置き換えられる。
 そんなわけで、問題なのは自分から相手に伝える時。思いを脳内で英語に変換させる事が出来るのでなんとか話すことはできるのだが、それはあくまで“音”への変換が可能なだけなのだ。
 だから文を綴るときにはそのスペルを覚えなければならない上に、日本人の脳なのでかっちりした文法で翻訳されてしまうこともしばしば。
 とくに会話特有の表現など元々知らないのだから翻訳のしようがない。
 それゆえ、随分とかしこまったような、あるいは馬鹿にしたような態度にとられることもあるとダンブルドアから指摘を受けた。

――めんどくさいけど…こればっかはどうにもできないからなぁ…

 それでもこのひと月、ホグワーツの教師陣並びにウィーズリーの双子に教わっただけはあり、今では中々に違和感なく文章が書けるようになっていた。
 しかしそれでもまだ至らない部分も多く、そんな時は決まって図書室に行きマダム・ピンスに質問するのが結悟の解決策だった。

『ごちそうさまでした、と…。』


 学ぶのは面倒だけれど楽しいと、結悟は最近そう思うようになっていた。





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