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-009-

 本は良い。理由なんてあげたらきりがないくらい、結悟は立派な活字中毒だ。
 そして祖父の遺した本の数々は、結悟にこの上ない感動と知識をもたらすものだった。



魔法学校隠密乱入記 ‐009‐


 静かな時が流れる。
 校長室から戻った結悟はいつの間にか用意されていた昼食をとって、ふと目に留まった本棚から数冊、本を抜き出して読むことにした。…のだが。
 もう疾うに日は暮れ、辺りは夜の帳が下りている。そんな中聞こえるのは森で木々の木葉が触れ合う音や、梟かと思われる鳥の鳴き声、そして結悟がページを繰る微かな乾いた音だけだった。

『ちょっと結悟?いつまでそうやって読書なさっているおつもり?』

 そんな結悟の部屋に不意に、唐突に、ミヤビの声が響いた。

『いつまで、って…』

 それに驚くことなく答える結悟だが、言いかけてはっと気付く。

『…ミヤビ、今何時?』

 慌てて空に視線をやれば、いくらか欠けた月が天上高く輝いている。

――うわぁ…もうコレ真夜中近いよ…

 ふとシンクをみれば、冷めきったスープを始め夕食がぽつねんと取り残されていた。

『さて、何時かしらね。あなた時計はお持ちでないの?』

『残念ながら只今紛失中なんだよ…。』

 がしがしと髪の毛をかきまぜつつ言う。

――探しに、行くか。夜ご飯は、ほんとゴメンナサイ…。

『ミヤビ、ちょっと出てくるわ。』

『あら、いいのかしら?夜中に場内をうろつくなんて。
…意地悪な者に出くわしても知りませんことよ?』

『大丈夫大丈夫。図書室まで“移動”するだけだから。』

 あらそう、と微笑むミヤビにひらりと手を振って。
次の瞬間には鈴の音だけが残った。

 シャン、という音と同時に図書室の絨毯の上に降り立つ。そこは、当たり前だが月明かりのみに照らされた空間だった。

――えーと、たぶん近くに落ちて…?

 自分が最初に見た風景を思い浮かべたのだから、もし時計が落ちているとしたらこの近くだろう。しかし結悟は、別の事に気が付いた。

「…」

 す、と右手を前に出し、そこに灯る光をイメージする。すると実際に結悟の手にやわらかな光が灯り、球体になり、ふよふよとどこかへ漂っていく。その先には、

「…バレてますよ。お二方。」

 結悟のその一言に観念したのか、人間が二人、本棚の陰から現れる。

「いやはやまさか。」

「こんな早くに見つかるとは思わなかったぜ。」



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