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「なぜそう思うのじゃ?」
「なぜって…だって、そりゃあ離れた場所からの“召喚”が可能だってことの証明にはなりますけど、だからと言ってそれが異世界からの召喚に直結するとは限らないじゃないですか。」
結悟がそう言うと、ダンブルドアはますます笑みを深くして。
「まさにその通りじゃ。この遠距離召喚の原理は、ヒデハルが教師になる頃には既に作り上げていたものでの。これには召喚元の場所を指定しなければならないなどと言った欠点も多数あったのじゃよ。
しかし、指定さえできれば召喚できるという大きな確信をヒデハルは持ったのじゃ。そこで、次に彼が考えたのは召喚元の特定、つまりは異世界の証明じゃ。」
「異世界の…証明…。」
結悟は茫然と呟く。確かに祖父は突飛な考えで周りを驚かせることがあったが、まさかそんなことを本気で証明しようなどと思うとは。
「そのためには、膨大な時間がかかるであろうことが解ったのじゃろう。
その実験の途中に何が起こるかもわからんことも。
じゃからヒデハルはホグワーツを去り、単身研究に没頭した。…それでも、ひと月に一度は手紙を送ってくれての。研究の進み具合から実にくだらない話まで色々とやり取りをしたものじゃ。」
また、懐かしむような笑み。それは何故か、祖父の哀しげな笑みと重なって。
「ところが、何年か経ってその手紙がぱったりと来なくなった。どうしたのかとは思ったが、丁度その年に気になる生徒が入学しての。ヒデハルに割く余裕が無かったのじゃ。
それでもその年の年度終わりにヒデハルの家を訪ねたのじゃが…そこには誰もおらんかった。」
――それ、って…
はっと思いつく結悟。
「そうじゃ。君の思う通り、ヒデハルはその年にこの世界から消えてしまった。彼が行方不明になったことは魔法界で大ニュースになったのう。
それでも、彼が異世界へ行ってしまったと考えた者はごくわずかじゃっただろう。
…しかしながら、今日。」
そこでダンブルドアは、何故か悲しそうな、憂いを帯びた表情を見せた。
「今日、彼はその証明に成功したわけじゃ。」
ほんの、一瞬だったが。
「…アタシが、この世界に来るかもしれないことを…知っていたからアルバスさんはアタシが現れてもそんなに驚いていなかったんですね。」
「そうじゃ。」
ダンブルドアはゆっくりと頷く。
「しかし、君がヒデハルの孫であり異世界から来たことは、あまり広く知られない方が良いじゃろう。
幸いにも苗字が違うし、当時の彼をよく知っているものでなければ孫だとは気付かんじゃろうからの。」
「そう…ですね。」
自分の存在が騒ぎをもたらすのは全くもって遠慮願いたいのだ。言わなくてもいい事は言わないでおくに越した事はない。
そう思って何度か頷いた結悟であったが、それを見てダンブルドアはゆるりと顔を横に振った。
「そうではないのじゃ、ユイゴ。事はもう少し面倒でのう…この世界とは別の世界があると言う事が知れ渡ると、非常に厄介なことになるやもしれんのじゃ。」
眉をひそめ、苦々しげに言うダンブルドア。
「厄介な…?異世界に行こうとする人が出てくるかもしれないからですか?」
「ふむ…まあ、そんなところじゃのう…。最も厄介なのはそうした思いを抱く者の中にはとんでもない考えを持つものがいくらか存在すると言う事じゃ。
例えば…そう、その世界を征服しようなどといったの。」
「世界征服て…そんなアホなこと考える人なんて、ましてや実際にしようとする人なんていないんじゃないですか…?」
――いくら魔法使いだからって…なあ…。
結悟が眉を寄せてそう言うと、ダンブルドアは悲しげに言った。
「この世界で、この世界を征服しようとした痴れ者がおったのじゃよ。」
その一言で結悟は唐突に理解した。ダンブルドアが、何を懸念しているのかを。
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