-002-
かつん、こつん、と夕焼けか朝焼けかも判らない斜陽に、うっすらほんのりと紅く照らされた石造りの廊下を歩く人影がみっつ。
先頭を歩く見事な髭をたくわえた老人、後に続く老人の肘辺りまでの背の黒髪の子供、しんがりは四角い眼鏡をかけた黒髪の厳格そうな女性。
――何が、どーなってんの…
黒髪の子供、もとい結悟は思わずため息を吐いた。
魔法学校隠密乱入記 ‐002‐
――なん、え?
どこかで見た顔、というかつい最近見た顔。
何処でだったか、そう、確かDVDレンタルショップの陳列棚で。主人公の後ろに、この老人は居なかったか。
――オイオイオイオイ…ウソだろ…?
結悟はそれを見たことはなかったが、原作本なら何年か前に全て読んだことがある。
――無意識にテレポートした先が二次元の世界でした、なんて。
かちり、リングとブレスが床に当たる音がやけに響いた。もはや乾いた笑いしか出ない。
唐突に、咳ばらいが聞こえ結悟の意識は現実に引き戻された。
「それで、あなたは――」
そう言ったのは黒髪の女性。
困惑の表情は拭い切れていないが、それでも落ち着きを取り戻したようだ。
「いったいどうやって、ここに来たのですか?」
女性が問う。
「え、と…どうやって、と言われましても…」
答えようと結悟は口を開くが、何と答えていいものか、妙にうわずった声しか出ない。
「まあまあ、ミネルバ。そう急いても仕方のない事じゃ。…立てるかの?」
最後の一言は結悟に向けたものだろう。言われた通り結悟は立とうとした。が。
「っ?!」
がくん、と体が傾く。間も無く本日二度目の衝撃。
――なんで?何が?え?
訳が分からないまま、足元を見る。と、そこにはだるんだるんに投げ出されたジーンズ。
「…は?」
そこへ追い打ちをかけるように、服が肩からずるりと落ちた。
「ふむ…何にせよ場所を変える必要があるようじゃの。」
結悟の周りを見ながらそう言って、老人は杖を振った。
すると床に残っていた数冊の本がひとりでに本棚に戻った。そうして彼はこちらを見る。きらきらとした目で、何かを期待するように。
自分が普通じゃないことに気付いているのだと、結悟はそう思った。
それを見越して、結悟がどうするのか、それを期待して見ているのだと。
彼は場所を変えると言った。ならば動けるようにならねばならないだろう。結悟は目を閉じ、ふっと息を吐いた。
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