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その女性はまた何か呟いて、どこかへ走っていくような足音が遠ざかって行った。
――え、放置?いや、確かに普通の人から見りゃあ怪奇現象だけどさあ…
そもそもどうしてこんなことになったのか。転倒回避の本能が働いたならベッドの上にでもテレポートしただろう。
それがなんだってこんな外国の図書館にワープしたのか。
周りの様子も解らないから本を戻しようもない。
――こういう時は下手に動かない方がいいかなー…
現在地が解らないと自発的なテレポートは出来ない。それでなくとも結悟はテレポートが苦手なのだ。
――さっきの人早く戻ってきてくんないかな…
そして膝を抱えて待つこと数十分。…いや、実際は数分だったかもしれない。
何人かの足音と、話し声が聞こえてきた。さっきの女性の声に、どこか厳格そうな女性の声、落ち着いた男性老人の声。
やはり話しているのは英語のようだ。
――えいご、英語…と。
脳内に使用言語を思い浮かべ、そこに英語を追加する。そうするとその言語を理解し話せるようになる。
なる、のだが、
――あれ?
聞こえるのは未だに訳の分からない声。
――英語じゃ、ない…?いやでも、じゃあ…イギリス英語?
途端に声が意味を成す。どうやらここはイギリスだったようだ。
「ありえませんよ。校内では姿現しは出来ないはずです。」
「しかしのうミネルバ、実際こうして本の山が出来ておるのじゃ。」
――ちょっと待て。どっかで聞いたような単語が聞こえたんだけど。
姿現しとか、ミネルバとか。ひくり、口角が引きつるのが分かった。
「なんにせよ、本人に訊けば分かる事じゃ。」
ふっと、本当に急に、視界が開けた。バリアに沿って積み重なっていた本たちが消えたのだ。それと同時にバリアも消えた。
それを確認し視線を上げた、そこにあったのは、
「ふぉっふぉっふぉ、これはこれは…」
「まさか、そんな…」
長い長いひげ、それに負けず劣らず長い銀髪、高い鉤鼻。
半月の眼鏡の奥からきらきらとしたブルーの瞳がこちらを見つめていた。
「………は?」
それだけ言うのが、精一杯だった。
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