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-001-

 ドスン、と、たぶん尻餅をついたのであろう衝撃を感じるのと。
 眼前に迫りくる数多の四角い物体を視認するのと。
…いったいどちらが先だっただろうか。

魔法学校隠密乱入記 ‐001‐



 2011年、1月上旬。というより初旬。
さらに言うと三が日。

「あ゛−…ちくしょー…冬休みに課題があるとかおかしいでしょーよ…」

 自室で机に向かう少女とも少年とも言えない姿があった。
ひそめられた眉、細められた切れ長の目、つややかな黒髪。前髪はやたらファンシーなピンでとめられている。
 そのピンを弄っている右手には、変わったデザインのリング。くるりくるりとシャーペンを回している左手首にはおそらくリングとペアなのであろうブレスレットがつけられている。
 そんな学校から出されていた課題を今の今まで放置していた彼女、そう“彼女”は末廣結悟(スエヒロユイゴ)。高校2年の17歳。
 頭は良い方だが如何せんかなりのものぐさなので長期休暇後半にはいつもこんな風に机の前から離れられなくなっているのだった。来年には…というよりはもう今年なのだが、受験生だというのに、どうしたものか。

「…わっかんね。」

 シャーペンを壁に思いっきり投げ付けたい思いに駆られながら、それでも机に開いたノート(ちなみに数学)に置く。
 椅子の背もたれに体重をかけ、おもむろに右手をひら、と動かす。
 すると、ひゅ、と空を切る音がして、小さな何かがその右手に収まる。
 …MDプレイヤー、のようだった。
 末廣結悟は普通ではない。
 結悟に限らず、末廣の家系は古くから特異体質が多く出ていた。とくに祖母は能力が強く、また婿に迎えた祖父も桁外れの能力を持っていたためその娘である母は最早絵本に出てくるような魔女と言ってもいい程であった。
 父は一般人だったが結悟はその能力をしっかりと受け継ぎ、また家族内で能力の使い方を教われたため、幼い頃の暴走も少なく、今ではその能力を持て余すことなく呼吸と同じように扱うことができる。

――眠い…

 イヤフォンを付ければ、再生ボタンを押すことなく曲が流れる。
 このMDプレイヤーは母から10歳の誕生日に貰ったもので、結悟の大切なものの一つだ。
 聞きたい曲があればその曲を思い浮かべるだけで、特に聞きたいものもない時は動けと念じるだけで動かすことができるという電気要らずの優れものなのである。

――今、何時よ…?

 MDプレイヤーをジーンズのポケットに入れ、机の上の懐中時計を左手に呼び寄せる。
 蓋に三本の線が末広に描かれているそれは、なんでも明治からこの家に伝わるものだそうで、末廣の先祖が作ったらしい。


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あきゅろす。
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