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短編3
【首】





 細い首を、と。
 こういう時、そう表現するのだろう。







 此の首は、昔から細かった。
 折れてしまいそうな程細く、脆く簡単に崩れてしまいそうな首。
 簡単に、片手で、否、軽い衝撃ですら壊れてしまいそうな細さ。
 其の首は、其の細さで、其の危うさで、何の不可もなく頭部という重量物を支えている。
 人間の頭部は結構な重量があると聞く――其の重量で、けれど細い首は折れる気配を見せはしなかった。


 けれど。
 否、だから、か。


 私は、何時も其の首を見て。
 細い。
 細い首を見て。

 柔らかい肌よりも。
 艶やかな黒髪よりも。
 膨らみのある胸よりも。
 すらりと伸びる腕よりも。
 引き締めくびれた腰よりも。
 露出するかたちの良い脚よりも。

 私はずっと、その首だけを見ていた。
 細い首を。
 ずっと、昔から、見ていた。



 だから。
 今。



 細い首に。
 少し、少しずつ力を込めて。


 首は。
 細い首は。
 軋んで。

 其の軋みが。
 指の骨を伝って。


 無音で。


 響いていた声も、喘いでいた唇から漏れることはなくなって。
 私は無心に。
 だから。
 其の場所は、無音だった。

 ――少なくとも、無音に思えた。


 私は、永遠と。
 永遠とも、永久とも、己の内で思える時を。

 無心で。
 ただ、無心で。


 首を。
 細い首を。
 ずっと見続けていた、首を。


 ずっとずっと。
 無心で。

 縊る。



 細い首を。
 細い首を。


 ずっと、願っていた通りに。

 細い首に。
 指を絡ませて。
 やわらかく。
 ゆっくりと、圧して。

 ずっと、身の内に凝っていた願いの通りに。
 欲の通りに。


 首を。
 細い首を。
 細い首を。
 細い首が。


 細い首が。
 首が。
 白い首が。



 やがて。
 無心だった私の思考の中に。

 首が。
 細い。
 首が。
 白い。
 面が。

 其の、細い首が。
 白い首が。
 白い面が。


 醜く。
 美しく。



 視界の。
 思考の。

 片隅から。
 徐々に。
 少しずつ。
 浸食して。
 腐食して。
 白い色が蔓延する。


 其の白は、首。
 其の白は、面。


 首は細くて。
 首は白くて。
 首は。

 面は。
 面は白くて。
 面は。
 面は。
 面は、わらって。


 其処には。


 笑う顔が。
 嗤う顔が。
 ワラって。



 白い色が、ワラっていた。
 嗤っていた。
 笑っていた。



 嗚呼、否。
 此れは、私の眼に映るまやかしなのだろう。


 まやかし――幻影、幻惑。
 私の見る、幻の世界。
 幻の感覚。


 幻惑するのは、細い首。
 白い面。
 わらう顔。


 私の脳が。
 私の思考が。
 私の感情が。

 わらう顔に、苛まれる。



 わらってはいない筈なのに。
 其の顔は、わらっていた。


 幻惑。
 幻覚。
 まぼろし。

 私の脳が見せる、幻影。


 ――否。
 断じて、否。


 この顔は。
 白い顔は。

 私が見ているのでは、ない。
 私は、見せられて、いるのだ。


 此れは。
 此の顔は。
 わらう面は。
 細い首は。









 此れは、白い女が私を呪っているのだ。




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あきゅろす。
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