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短編3
雪に眠る



 雪が降る。
 全てを埋めてしまう、白い雪が……





「泣くな」
 声が降る。
 背に触れる手は、分厚い布で覆われて、熱を伝えはしない。
「泣くな」
 残像が残る。
 頭の中に。
 瞼の裏に。
「泣くな。――泣いても何も変わりはしない」
 分かっている。
 分かっては、いる。
 けれど。
「お前が泣いたって、何も変わりはしないんだ。あの子は――」
 白い世界。
 白銀の世界。
 その世界に、白い色に。
「――あの子は望んで、あそこにいるのだから」
 望んで。
 そう、望んで。――望まされて。
 あの、白い異界に。
「だから、泣くな。帰ろう。あの子は、お前がここで果てるなんて、望んではいない」
 嗚呼。
 願わくば。
 願わくば。
「お前がどれだけ望もうと、あの子は決して望みはしない」
 あの白い世界で。
 共に。
 共に。
「それに」
 私も共に。
 あの子の傍らで。
「お前があの場所に足を踏み入れることは許されない。否、お前でなくとも、誰も」
 知っている。
 この地に住むものならば、誰だって知っている。
「あの場所は聖域だ。今後、あの場所に近づくことを許されるのは」
 誰も近づくことは許されない。
 あの場所は。
「……、分かっては、いるんだな。お前も。私も」
 あの場所は、沢山の屍が眠る――
「次にあの場所に近づくことを許されるのは、誰かが死ぬときだ。殺されるときだ。殺すときだ」
 赤い色を咲かせて。
 白い顔で。
 白い衣で。
 白い腕と脚をさらして。
「あの子は殺された。望んで。望ま、されて。無理矢理に、望まされて。あの子は、殺された……」
 二度と焦点を結ぶことのない瞳を虚空に向けて。
 二度と動く事のない腕と脚を伸ばして。
 二度と生み出されることのない赤色を辺りに散らして。
「殺された……殺された、んだ。そう、殺されたんだ――あの子は」
 引き裂かれて。
 縊られて。
 掻き混ぜられて。
「あの子は、あいつらに……あいつらに、殺されたんだ……っ」
 白い彼岸に、取り残されて。
 いつまでも。
 いつまでも。
「なあ、泣くな。あの子は、お前が泣くことを望んではいない。だから、泣き止んで。泣き止んで、共に……私と、共に」


「共に、あいつらを殺しに行こう」




 雪が降る。
 白い雪が。

 白い色は、全てを包み込んで。
 全てを隠してしまう。









 ………………。

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あきゅろす。
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