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不器用な束縛
5 sideB
或る日を境に俺に向けられたベクトルは、非常に滑稽なものだった。
一体何が良かったのか知らない。
次第に軟化していった彼等の態度に不審がったすぐ後に、それが出来上がった。
俺を囲む彼等に、毎日溜息の日々。
けれど俺が本当に杞憂なのは、九重会長の事だった。
中等の頃から憧れていた彼にキスをされた時は、酷く動揺した。副会長や双子から受けるセクハラ紛いのスキンシップとは違って、俺は確かにそれを嬉しいと感じたのだ。
同時に、虚しくもなったけれど。
彼にとって俺とのキス等、無感動で何の意味もないただの作業なのだろう。
冷めた目で唇を離した彼の視線が、すぐにある人物を捕らえたことに俺は気付いていた。

安曇野悠生

彼の親衛隊隊長だ。
少し釣り目気味の美貌は、何の感慨も浮かんでいない。
同じ親衛隊のチワワ達に囲まれて、その美しい顔に似合わぬカツ丼を上品に口にする安曇野先輩は、こちらをチラリとも見なかった。
安曇野先輩の後ろに座っていた、安曇野先輩の親衛隊隊長の遠野先輩は死ぬほどこちらを睨んでいたけれど。

羨ましくてたまらない。
こんなに会長から執着されている先輩が、憎くて仕方ない。
どうしてそんなに想われているのに、と。

「先輩、安曇野先輩」
「…何?」
西舎に向かう先輩に声を掛ける。
…3年の相良先輩と付き合っているのは本当なんだろうか。
振り向いたその顔は相変わらず無表情で何を考えるかわからない。
「なに」
抑揚の欠いた声音も相まって、本当に人形の様だと思った。
「先輩は…会長の親衛隊長ですよね」
「そうだけど」
「俺、会長の事が好きです」
ハッキリと、そう言った。
真っ直ぐ射抜いた漆黒の瞳には、情けない顔をした俺の姿が写っている。
近くでみると一層精緻な美貌だった。

「そう。で?」
「キスも、しました」
「付き合ってるの?」
「………」
「僕はセックスしてるけど」
「…知って、ます」
「君はしてるの?」
「…してません」
「ああ良かった。君と兄弟なんて僕の黒歴史だよ。それで君はこんな女々しい事をして恥ずかしくないの?」

初めて、苛立っているんだと分かった。辛辣な言葉は明確な悪意を持って、俺を傷付ける。
けれど彼の言う通りだ。
自分のしている事の愚かさは充分わかっていたつもりだけれど。

「認めて、欲しいんです」
「無理だね」
「なんでですか!」


「だって僕は九重が死ぬほど好きで、君の事死ぬほど嫌いだもん」








あんなにも憎悪を向けられた事はなかった。
生徒会の親衛隊など非じゃない。
「…結局、当馬」
平凡モブキャラで、愛される努力なんてしていない俺があんな極上の男に愛されるわけがない。
いつか見た九重会長と安曇野先輩のツーショットを思い出す。…お似合い過ぎて嫌になりそうだ。
DS片手に渡り廊下を進む小さな背を見つめる。
願わくば、さっさとふたりがくっついて俺の恋心が風化すればいいと思った。

ちなみに当馬は、すぐにでも卒業したい。


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