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〜薄桜鬼〜
日溜まりの中で[沖田ver.]
千鶴が男と話していた。
男だらけの新撰組、それは普通のことの筈なのにーー僕は何故かイラついていた。

「あ、沖田さん!」
笑顔で駆け寄ってくる彼女を見ても、今は余計にイラつくだけだった。
「ねぇ、千鶴ちゃん」
「はい!」
「君さぁ、そんな風にいつも隊士と話してるの?」
「えっ...」
千鶴の顔から笑みが消える。
きっと僕は今、冷たい目をしているのだろう。
「何か君......勘違いしてるんじゃないの?」
自分でも言い過ぎたかと思ったが、今の僕にこの感情を制御している余裕はない。
あ、ご免なさい
顔を青くして俯いた千鶴の肩は震えていた。
まるで僕が悪いことしたみたいじゃないか。いや、したのだろうけど...。
「じゃ」
「あっ......」
彼女が僕を引き留めたかったのは分かったが、敢えてそれは無視した。
これ以上、千鶴を傷つけたいとは思わない。

胸に芽生えた黒い感情。
自分が嫉妬深いことは知っていたが、彼女に対してこれ程までに強い感情が生まれるとは思ってもみなかった。
「あぁ......、斬りたい」
左腕が疼く。
いつの間にかその手は刀に添えられていた。

夕時、意外にも千鶴の態度は平常通りだった。特に気にしていないようだ。
「総司、後で俺の部屋に来い」
少しだけ、またイラついていると夕食後に副長室に呼びだされた。
「お前、雪村に何かしたか?」
「え?」
「明らかに態度がおかしかったろ」
「......」
気がつかなかった。
ただイラついていた僕に、彼女を心配する余裕なんてなかった。
「やだなぁ、何で僕なんです?何もしてませんよ」
「...そうか。ならいい」
僕は  上手く笑えていただろうか。

外へ出てみると、月がとても綺麗だった。

今宵は満月ーー

角を曲がるとまた...彼女だ。
今朝の隊士とまた話している。
「沖田さん!」
笑顔で駆け寄ってくる。先刻の心配は土方さんの勘違いだったのだろう。
「君さぁ」
「丁度、沖田さんを探して隊士の方にーーあっ」
いつもより少し離れた場所で立ち止まった彼女は震えていた。
あの千鶴が気にしないわけないのだ。
顔色も優れないように見えるのは月光のせいだけだろうか。
「どうしたの?千鶴ちゃん」
「え!」
伸ばした手が何かを掴むことはなかった。
必死に体の震えを抑えようとしている姿が、なんともいじらしくて可愛い。
が、逆にそれがーー
「君を見ているとイラつく...」
「えっ」
僕を腹立たせた。
少し離れた場所で立ち止まる彼女の顔には、強ばった笑みが浮かんでいる。
「ご、ご免なさい」
「......っ」
少し離れたその距離が、今はたまらなく嫌だった。
まるで、彼女と僕の別に何でもない関係を物語っているようでーー
「......殺したい」
「!」
気がつくと、いつの間にか千鶴を力いっぱい抱き締めていた。
今まで我慢していたのに、たがが外れたかのようだった。
甘くて軟らかな香り。
千鶴の香り。
「お...きた...さん?」
「殺したい。今すぐ君を殺してーー」
体を離し、そっと顔に手を当て上向かせる。
「君を誰の手にも触れられないようにしたい」
「...沖田さん」
少し頬が桃色に染まったように見えたのは気のせいだろうか。
「...なんてね」
「え?」
「あれ?千鶴ちゃん、もしかして本気にした?」
「えぇ!?いや...、あの」
ぴんっと弾くように頬から手を離す。
「あははっ冗談」
「な、なんだぁ」
今はまだーー
「冷えてきたね。入ろうか」
「はい」

冗談でいい。

それでもいつか、僕はこの感情を抑えきれなくなるだろう。

好きだよ千鶴ーー殺してしまいたいくらいに

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