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まつげの先にジェラシーのせて
1.


「だったら、阿部くんは、水谷くんと、付き合えばいい!」

「はあっ!?」

いつもは下がり気味の眉をキュッと上げて、瞳に涙を浮かべながら三橋は言った。

いつもならオレがちょっとでも眉をつり上げたならびくびくしながら逸らす瞳は、しっかりとオレをと捉えて離そうとしない。

三橋は怒っている。

でもなんで?




その日はとても気持ちのいい天気だった。

『屋上で昼メシ食おーぜ!』

という田島からの召集メールでオレたち野球部10人は、屋上で円になり座って弁当を食っていた。

オレの右隣に三橋、左隣には水谷が座っていた。

「唐揚げやるからその海老フライちょうだい!」

水谷がオレの弁当を覗き込みながら言い、唐揚げを放り込んで来たかと思ったら海老フライをヒョイと取って行った。

「おいっ!」

抗議しようとしたが、すでに海老フライは水谷の口の中だった。チッと軽く舌打ちをし、水谷を睨み付けると右頬に抜けた睫毛が付いていた。

「水谷、睫毛」

ムカついてはいたが気になったので、摘んで取ってやった。

「ほれ」

指先に乗せた睫毛を水谷に見せる。てっきり「ありがとう」という言葉が返って来るかと思いきや、水谷はギャーと叫んだ。

「なんで取っちゃうんだよ!阿部!!」

「はあ!?」

思ってもみなかった非難の声にオレの片眉がピクリと上がる。それを見た水谷はちょっと引きながら言った。

「と、取る前に声かけてよね」

「ああ!?かけただろーが!」

「だから!取っていいか聞いてって言ってんの!」

「なんで?」

「…睫毛取る前に願い事したら叶うって聞いたから…」

「はあ?なんだそりゃ」

恥ずかしそうに言う水谷をオレは一蹴した。
そこに花井が口を挟んできた。

「あ〜、そう言えば昨日女子がそんな事言ってたな。何お前信じたの?」

「しっ、信じたってゆーか、ちょっとやってみようかなって思っただけだよ!」

「バカじゃねーの?叶うワケねーだろ、クソが」

「ちょっと阿部!クソって言うのやめてよ!」

「水谷ってなんか女子高生みたいなトコあるよね〜」

栄口がそう言いながらアハハと笑い、みんなもつられて笑った。だけど水谷の他に笑ってないヤツが1人いた。

三橋だった。

いつもならみんなの話題に乗り遅れないように必死に話を聞いているのに、何故だか三橋はぼんやりしていた。オレは珍しいなと思いながらまじまじと三橋の顔を見た。

すると三橋の頬にも付いていた、睫毛が。

「三橋、お前も睫毛付いてる」

「え?」

「取っていいか?」

オレがそう聞くと水谷が背後でギャーギャー文句を垂れたが、あえて無視した。

三橋の返事を聞く前にオレは右手を伸ばす。

だけど。

三橋はその手を跳ねのけた。

「じ、自分で、取る、から…!」

そう言って両手で頬をゴシゴシ拭った。




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