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AROUND THE WORLD
7.


1カ月という時間は瞬く間に過ぎていった。あれからまたマスターにバイトの延長を頼まれたけど、今度は断った。

それというのもオレの上司が企画したプロジェクトが上に通り、その上司から直接補佐を頼まれたからだ。プロジェクトが動き出すとかなり忙しくなり、休日返上で出社なんて当たり前になる。

そういう状況になるのが解っていて、バイトを引き受ける事なんて出来ない。絶対マスターに迷惑をかけてしまう。

事情を話すとマスターも三橋も残念そうにしていたけれど解ってくれた。

「お客さんとして、また、来てくれる、よね?」

不安そうに聞いてくる三橋に笑いながら当たり前じゃんと言って、デコピンしてやった。思ったよりいい音がしてちょっと焦ったけど、三橋は額をさすりながら笑ってた。




バイト最終日の前の日の金曜日。早めに仕事が終わったオレは三橋にメールをした。

『まだ開店前だけど店に行っていい?』

返事はすぐに返ってきた。

『いいよっ\(^o^)/』

その返事を見て思わずにやける。たとえ友達だと解っていても嬉しいものは嬉しい。見慣れた顔文字も三橋が打ったモノだとやたらと愛しい。

重症だな、と思う。
気持ち抑えないとな、なんて思いながらも店へ向かう足取りは軽く、気付けば走り出していた。

店まであと少し。店の前では三橋が箒を持って掃除していた。目が合った瞬間、三橋の笑顔が消えた。あれ?と思った時

「隆也!」

呼ばれたと思ったと同時に背中をバシンッと叩かれた。驚いて振り向くとそこには懐かしい顔。

「久しぶり!」

悪びれもなく無邪気に笑う三カ月前この場所でオレをフった元カノだった。

「なんでお前…!」

「偶然だね〜、でもちょうどよかった。ね、ちょっと話せない?」

「ええ!?」

もうとっくに忘れていた存在の出現にオレは盛大に焦っていた。ヤバいなと思いながら振り返ると三橋の姿はそこにはもうなく、オレは腹を決めた。

「わかった、少しなら付き合う。その前にメールさせろ」

「え〜、誰ダレ〜?もしかして彼女?」

「お前うるさい」

三カ月前までは確かにかわいいと思っていた甘ったれた話し方が、今はやたらとかんに障る。

『ごめん、ちょっと遅くなる』

とりあえず三橋宛てに簡単にメールを打った。別にこんなメール打つ必要はないのだけど、三橋に元カノとよりを戻したとか思われちゃかなわない。

「隆也、まだ?」

甘い中に苛立ちを交えた声で元カノ(清美というのだが)はオレを急かした。

オレはその辺の茶店で済まそうとしたが、腹が減ったと言う清美に連れられレストラン・バーに入った。




「旅行、百合子と行ったんだよ」

オレは耳を疑った。

「お前、旅行行ったの?」

「だって旅行会社に電話したら隆也キャンセルしてなかったんだもん。お金もったいないから百合子誘ったの」

百合子は清美の幼なじみで親友の女だ。オレも何回か会った事がある。

しかし、信じらんねー。普通行くか?オレがキャンセルし忘れてたとはいえ。

「どうせオレの悪口で盛り上がってたんだろが」

「あ、わかるぅ?百合子も彼氏と別れたトコだったから、愚痴大会だったよ。それはそれで面白かったけどね〜」

運ばれてきた料理を次から次へと平らげていく清美を見ながら、オレは三橋の事ばかり考えていた。

時刻は8時15分。ちゃんと店開けたのかな?今ごろシェイカー振ってんのかな?客を上手くあしらえなくてキョドってないかな…。

「隆也!ちょっと聞いてんの!?」

清美のかん高い声に我に返る。ああ、全然聞いてなかった。

「だからね、あたしの家にある隆也のモノ、今度取りに来て」

「あ?やだよ、めんどくせ〜。もう捨ててくれ」

「え〜、人のモノ勝手に捨てんのヤダ」

「勝手じゃねーだろが」

「ちゃんと何があるか確認してって言ってんの」

「あ〜、じゃあ送ってくれ。着払いでいいから」

そう言うと清美はちょっと膨れっ面になった。なんでそういう反応をするのかが解らない。正直鬱陶しい。

「なんでそんなに素っ気ないのよ」

「オレ約束あんだよ。お前の為に向こうの約束遅らせてんだぞ」

「それはそれは失礼しましたー」

なんかムカつくなぁ…。こんなにイラつく女だったっけ?

「じゃあ、オレのもん送ってくれな」

「あ、ムリムリ」

清美は赤ワインを飲みながら片手を振った。

「なんで!?」

「あたし、隆也の住所知らないもん」

「はぁ?」

お前、4年付き合ってきて住所も知らないってなんだよ。

「隆也と別れた後、ソッコーでアドレス消したから」

「あ〜、そーゆーこと」

オレは手帳を取り出し住所を書いて清美に渡した。そして念のために確認する。

「お前彼氏出来たんだろ?」

「あ、わかるぅ?」

清美はニヤッと笑った。ああ、よかった。万が一より戻そうなんて言われたらどうしようかと思った。断るの面倒だし。

オレは伝票を手に取り立ち上がった。

「じゃあ、オレ行くから」

「ん、ご馳走さま。彼女によろしく〜」

「違うっつーの」

オレは笑いながらレストラン・バーを出た。

三橋の店まで歩いて10分。9時過ぎには着く。余計な邪魔が入った分早く三橋に会いたくて堪らなかった。




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あきゅろす。
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