BL部屋
実像崇拝《笠黄》
堂々と笠松先輩がイッちゃってる。黄瀬も危ない。
「笠松、黄瀬がいない」
「…それで俺にどうしろと」
「連れてきてよ、飼い主」
「あんな駄犬飼った覚えはねえ」
「似たようなもんでしょ」
シッシッと手で示す森山。どうやら行くしかないらしい。俺は森山に部活の指揮権を置いて、黄瀬を探しに体育館を出た。
《実像崇拝》
「あれ、主将どうしたんっスか」
「お前…サボるならせめて教室とかにいろよ!!」
植え込みの陰とかお前はマジで犬やら猫か。
俺は散々校内を走り回った挙げ句、帰りがけの体育館裏の人気のない花壇の横で黄瀬を発見した。
「サボりじゃないっスよ、病欠っス」
すいっと俺から目を逸らす黄瀬に脱力する。病欠ってお前。
「病欠の奴が地面に座るかよ。
つーか目、赤くないか」
そう、こいつを見つけた時から気になっていたのだ。いつもヘラヘラ笑っている黄瀬の目が、赤く充血している。
「あれー、マジっスか。疲れ目かな」
なんて言いながら目をぐっと瞑ってみせる黄瀬。その仕種はあまりに自然で、本当に目が疲れているんじゃないかと思った。
こいつが病欠を使う唯一つの理由を知らなかったら。
「お前は思ったより嘘が上手いよな」
ドスッと黄瀬の横に腰を降ろす。
黄瀬が驚いたように俺の顔を見たが、そんなもん無視だ無視。
「何があったか話せ」
この声、この台詞、この表情に、黄瀬が弱いと知っているから。こいつのこの病気に、俺は特効薬なのだ。
「先輩の、せいっスよ」
「ああ」
黄瀬の話はいつもこれで始まる。それにいつも俺はこれだけ答える。
「笠松先輩が、悪いんスからね。いつも格好よくて、俺なんか全然あんたに届かないのに、自覚しないでみんなに優しくして」
「ああ、それで?」
酷い話だと思う。俺よりずっと恵まれた身体、恵まれた才能、恵まれた容姿。俺に言わせれば黄瀬を差し置いて俺が自覚しなければならないものなどない。
それでも話を割らないのは、最後まで聞いてやらなければいけないから。それが俺の義務で、権利だ。
「俺、聞いちゃったんっス、ファンの子達が話してるの。俺は鑑賞用らしいっス。彼氏にするなら男バスのキャプテンさんがいいって」
話しながら歪んでいく顔は相変わらず整っていて。その顔を視界に映さないように、俺は空を見上げた。
「そう考えてる人が沢山いたらどうしようって、思ったら、わけ分かんなくなって、気付いたらここで泣いてて」
俺はまだ沈黙を貫く。だが、あまりに弱くて哀れな後輩の髪を一度だけ撫でた。
「でもね、それは我慢出来るんス。
そんなことより、笠松先輩に観賞用なんて思われたら、俺…」
そこまで言うと、形のいい黄瀬の目にはまた涙が溜まりだす。
いつもそうなんだ。
太陽みたいに輝くこいつが泣くのはいつも俺のせいで。それを心の奥で喜んでいるのだから始末に終えない。
「黄瀬、一度しか言わないからよく聞け」
一度しか言わない、を、今まで何回繰り返したんだろう。
「愛してる」
こいつがボロボロになるたびに、俺が愛を吐くのは俺の為。どろどろに甘やかして、俺以外見えなくなればいい。
こいつの全てに侵されて、俺はゆっくり狂っていく。
「俺も、愛してます…」
例えばこいつの顔が、ここまで綺麗じゃなかったら。
例えばこいつのバスケが、これほど成長していなかったら。
例えばこいつがこんなにも、俺を慕っていなかったら。
俺は普通の男のままで、穏やかに生きて死んだかも知れないのに。
比類の容姿、奇跡の才能、天性の性格、どうしようもなく凡人を惹き付ける。
泣き止み笑ったこいつの顔に落とした唇は、恋というにはあまりに重く。
(狂気と呼ぶにはあまりに甘い)
******
リア友リク《笠黄》。
私は甘甘を書く気でいた。なぜこうなった。
ここまで弱らせないと私は黄瀬受けが書けないようです。ごめん、黄瀬!!
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