きみが居ないそれだけで
呼吸の仕方さえ忘れてしまいそう。
獄寺くんてまっすぐだよなあ、なんて。
改めて思うにはもう半年以上付き合ってる訳だし、今更かなあっても思うんだけど。
でもつくづく、本当にまっすぐなひとだよなあと思い知らされる瞬間がある。
楽しい時には本当にいい笑顔で底抜けに笑ってくれるし、悲しい時には今にも泣きだしそうな目で見詰めてくる。
怒った時のダイナマイトは困るけど、あれはあれで隠しもしないまっすぐな彼らしい行動だし。
でも俺が何より好きなのは、獄寺くんが嬉しい時の顔かな。
犬耳と尻尾がばたばた動いて、本当にキラキラした目を俺に向けて、うれしーです!と叫ぶのを見ていたら俺まで嬉しくてぎゅーってしてあげたくなるんだ。
ある意味、子供みたいにすごく純粋。
自分の感情に素直なんだと思う。
それくらい、獄寺くんは自分がそうだと思ったら、それに対して本当にまっすぐ突っ走るひと。
対する俺は、何をしてもダメで情けなくて。自分で言うのもあれだけど、人を欺いたり、隠し事したりするのが実は得意で。
面白くなくっても皆に合わせて笑ったり、ムカついても大丈夫だよと言うのなんて、何千何万回平気でやってきた。
(俺はまっすぐじゃないなぁ)
初めこそ怖いなあとか、騒がしいなあって思っていたのに、いつの間にか獄寺くんに惹かれていた。
可笑しいのかなって思って、でもそれは俺だけじゃないってすぐに分かったんだ。
ああなんだ両想いじゃん。そうと知ったらもう早い。今までの埋め合わせするみたいに今はもう、全身全霊の大好きをくれるし、負けないくらいあげてる。
しあわせでしあわせで
何もいらないくらい嬉しいのに。
こんな風に獄寺くんのことを考えるだけでこんなにまた大好きになって、でも同時に胸が締め付けられるんだ。
きゅうって締まって息がうまくできない。
なんでだか全然わからないけど、多分これが"切ない"ってやつ。
(考えてたら本当に涙がでてきた)
なんでかな、どうしてこんなに涙が出るんだろう。何が悲しいのかさっぱりだよ。だってこんなに獄寺くんが好きで好きでどうしようもなくて。
右側が酷く寒く感じた。
どうして今は傍に居ないんだろう?
平日なんてベッタリ毎日いっつも右側に、いるのに。
(あ、)
そういえば今日は土曜日だった。
昨日きみといつもの帰り道に、これから2日間も逢えないねって話しをしたんだったな。
そしたら獄寺くんたらじゃあどちらか一日逢いますかって言うから。
(日曜日に逢おうって約束したんだ)
そうか明日逢える。
だったら待たなきゃ、明日まで。短いよね案外すぐに明日はやってきて、それで一日きみと過ごせる、だから、だから待たなきゃ、だよ、うん。
(でも、)
(あー…だめかも)
苦しい苦しい、くるしい。
涙が出たのは多分、無性に彼に逢いたくなったからなんだ。
本当に本当に、悔しいくらいきみに恋してるから、もう一秒ですら離れるのも堪えられない。
冷静にみればすごい独占欲だ。
ひかれてもおかしくないかもしれない。
(…あれ)
けれどそんな風に軽く自棄になってた気持ちも、きみに逢いたい衝動だけで、こうして玄関を破るように開けて勢いよく外に出た今なら。
(なんだよ、)
ただの心配のし過ぎでむしろ獄寺くんも同じ気持ちなんだって解る。
「十代目!」
玄関を出て、道路の向こうから大好きなきみの声がして。
「獄寺くん!」
(どうしよう、嬉しい)
「どうされたんですか!?」
「きみこそ」
「俺は、」
少し黙って小さく、すみません、と。
我慢できなくて貴方に逢いにきちまいました。って苦笑いする獄寺くん。
(なんでそんなにまっすぐなんだよ)
逢いたいと思ったらいつだって、俺にまっすぐ逢いに来てくれるんだね。
だからそんな顔しないでよ、俺もだから。
ずっとずっと昨日ここできみの背中を見送ってからずっと。
「俺だって逢いたかったよ」
嬉しくってしょうがないから、珍しく勇気を出して俺からきみに抱き着いてみる。
息を大きく吸い込んでから
ああ、呼吸ってこうするんだったなんて変なことを考えた。
人通りがあるかも知れないとかもうそんな小さいことはどうだってよかった。
きみの前ではいつだって、負けないくらいに俺もまっすぐになれるんだよ。
「どうしましょう、十代目」
「ん?」
勢いで抱き着いた獄寺くんの顔を、腰に回す腕はそのままに見上げれば真っ赤に崩れた笑顔とぶつかる。
「俺嬉しすぎて死にそーです」
「死んじゃだめだよ」
ニカって笑ったその笑顔一つで、今までのキリキリした胸の痛みなんて遥か彼方に吹っ飛んでく。
ぎゅうって、
抱きしめられて抱きしめて。
痛いくらいなのに、凄くあったかいし優しい。
「昨日の帰りぶりだね」
「早く貴方に逢いたくてしょーがなかったです」
「じゃあ俺と一緒だ」
嬉しいからそう言ったら、光栄です!と満面の笑みを返された。
まだ離れてから一日も経っていないのに、俺達は我慢をしらないね。
「じゅーだいめっ」
「ん?」
「今日も明日も一緒ですね!」
犬耳と尻尾がばたばた揺れて、ぎゅうぎゅう抱き着くきみを、
すごくすごく心から愛しいと思った。
ずっとずっと一緒に居よう、
一秒だって離さないから。
(ウチに来ませんか)
(もちろん!)
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新年最初のネタなのに、あまり変わり映えしないという。
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