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フォルティッシモで貴方に届け 下




「本当にこんなんでいいんですか?」

俺はそう言いつつも十代目に促されるままに、角にあるピアノの前の椅子に座る。
補習が終わり、たった今二人で音楽室まで来たところだ。

もう夕日は殆ど沈み、暗さの方が空の大半を占めていた。大体の生徒は帰っただろうか、生徒達の声は今は聞こえない。

「何か聴きたい曲はありますか?」
「あ…俺そういうの全然分かんないからさ、獄寺くんが好きな曲弾いて?」

苦笑して、でも少し嬉しそうにそうおっしゃって、十代目は俺の右側に来てくれる。触れたらすぐに届く距離だった。

(十代目の傍に居るとあったけぇな)

熱を発散してるとかそんな訳ではないけど、十代目が少し近くに来てくれるだけでそこが一瞬で温かくなった気がした。


今までこんなに思った人間なんてただの一人も居た覚えは無かったし、強いて言うなら母親かもしれないが、それはまた違った愛情なんだろうと俺は思う。
十代目に抱く感情はいつだって、温かくて激しくて、優しくてきゅうっとなる幸せな感じだ。

「獄寺くん、決まった?」
声に気付いてぱっと十代目を見やれば、なんだか緊張したような照れたような微笑みのまま顔をのぞき込まれる。
不意打ちな顔のアップにドキドキしつつも、相変わらず可愛らしい顔に笑顔を返しながら、思い付いた曲を弾くために、白と黒の鍵盤に指を乗せた。
(―今日は貴方の産まれた日、)

「聴いて下さい、十代目」

頷いた十代目を確認して、鍵盤を鳴らし始めた。
















「やっぱすごいや、獄寺くん」

弾き終わって、ぱちぱちと。
小さい拍手と共に十代目がそうおっしゃった。

しかし。

「すいません、俺間違えまくっちまって…」
どうしてこういう大切な日に限ってミスがあるのかと、思わず自分の手を睨んでしまう。後悔というのはこんな気持ちを言うんだと僅かに感じざるを得なかった。
気持ちだけは込めましたと言えば聞こえは良いが、こんなんで良かったのか、正直分からない。情けない話、十代目のために弾くとそう考えたら柄にもなく緊張して手が震えてしまった訳で。

「なんで謝んの、凄く上手かったよ」

それでも笑顔の十代目を見れば、心からそう言って貰えるのが解るから本当に嬉しいと素直に思えた。
本当に、本当に気持ちだけは、溢れる程込めたつもりだから。

「俺音楽とか全然分かんないけどさ、獄寺くんのピアノ、好きだ」
「…本当ですか」

顔が一瞬でかあっと熱くなる。
しかしそんなこともう気にしていられない。好きだ、なんてそんな笑顔で言われたらなんだか嬉しくって泣きそうになる。

「俺ね、獄寺くんのピアノも、獄寺くんも大好きだよ」

「えっ…あ…?」

十代目の言葉に体の熱が熱くなるのを感じた瞬間十代目は俺にゆっくりと、でもぎゅうっと俺に抱きついてきた。

「じゅっ…じゅーだいめっ?」

しばらく落ち着きそうにない心臓を必死に隠しながら、抱き締めてくれる貴方を見ると耳まで赤くて、これは夢なんじゃないかってくらいに、嬉しさがどんどん込み上げてくる。

「…ありがとう、獄寺くん」

ドクン、と
十代目の一言に更に心臓が叫びだす。
余りにも幸せだったから、俺も十代目をぎゅうっと音がするくらい抱き締め返した。十代目の声はいつだってそう、俺を無条件でこんなにも嬉しくさせる。

「十代目、…お誕生日本当におめでとうございます」
「うん」
「来年の誕生日は、もっとすげーもん用意しますから」


来年こそは一緒に買い物行きましょうと俺が言えば、はにかむように微笑んで、強請るような目線を向けられる。

「…来年もピアノ弾いてほしいな」
「……めちゃくちゃ練習しときます」

明日から練習しようかと考える俺を見透かしたように、早過ぎるよと言って十代目は笑った。

「でも、君が祝ってくれればそれでいいや」

ふわりと、
抱き締める腕の中で、不意に俺の世界一好きな笑顔がそう言って綻ぶ。

「獄寺くんがずっと、傍に居ればそれでいいよ」
「…はい、十代目」

(やっぱり貴方はいつもそうやって笑って)

「俺、約束します」

(俺をいつも一番幸せにしちまうんだ)

「…ずっと、絶対絶対傍に居ます」
「…最高のプレゼントだね」

ふわりと笑う十代目の、頬に軽くキスをして、少し低い位置にある肩に顔を埋める。

「ねぇ、じゅーだいめ」
「ん?」
「ありがとうございます」
「うん」

溢れてくる温かいこの気持ちが、止まらなければいい。

「生まれてきてくれてありがとうございます」
「うん…」

俺の気持ちの半分でも、十代目に直接届けられたらいいと心から思う。
それでも声に乗せて確実に届けたい一言だけは、彼の目を見て云いたくて。

「俺ど出逢ってくれてありがとうございます」
「俺も…ありがとう」

どちらからともなく笑って押し当てた唇は、泣きそうなくらい幸せな味だった。
















歳を重ねていく貴方がこれからも
誰よりもしあわせでありますように

(叶うならその隣はずっと俺だけの)





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2008.10.14
十代目happy birthday!

しかし二か月越しのハッピーバースデーorz


今回からちゃんとあとがき書こうと思いました(遅




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