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フォルティッシモで貴方に届け 上
口じゃあ届けきれないくらい、貴方に沢山伝えたいんです














昨日は眠れなかった。緊張しすぎていたからだ。この日になるまでずっと、今日1日のプランを念入りに立てて準備し、全てが上手くいくように考えていた。
例えあの野球バカだとかアホ女やアホ牛が邪魔をしてこようとも、全ての邪魔者はいつでも排除出来るようにしながら、十代目と2人っきりで居られるように計算して。気が付いたら朝だった。

未だかつて、こんなに嬉しい1日の始まりは無かったと思う。





10月14日。
俺の一番大好きなひとの生まれた日。



『お誕生日おめでとうございます!十代目!』

朝一番にそう言って、バラの花束を渡す所までは、良かった。
何故だか若干苦笑ぎみに受け取って頂いて、でも真っ赤なお顔でありがとうと、俺が大好きな笑顔で言って下さって。

授業が終わったら買い物に行き、十代目へのプレゼントを一緒に選んだりして、ケーキを買って帰り、十代目のお宅で俺もご馳走をいただき、その後はお部屋で二人でまったり祝うはずだった。

彼に喜んでもらえるように計画したはずだったのに。




なのに何故だ


「やっと出来た…本当ごめん、獄寺くん」
「十代目のせいじゃないっスよ!」

たった今答えが全て埋まったプリントに、頭が付くくらいがっくりとうなだれながら疲れきったように十代目はそう呟いた。
少し強めの西日が窓から入って俺達を夕焼け色に染める。

あえて言うが勿論今、予定を外れて教室に未だに居るのは十代目のせいなんかじゃない。彼は全く悪くないしむしろ被害者だ。こうなったの原因は勿論、全てあの野郎。

「こんな日に抜き打ちテストなんかやらせるあのセンコーが悪いんスよ!!」


為になることなど一生ないであろうこの学校の数学の時間。
そんな退屈な時間にいきなりの抜き打ちテストが行われた。点数の悪かった者は放課後に補習のプリントを埋めて提出、なんて

(くそ…計算外…!)


「その補習にばっちり捕まったなんて…本当に俺ダメツナだよ…」

「…っあの野郎、やっぱ俺が果たしてきます!!!」
「それはダメ!」

十代目を落ち込ませたことが許せなくて、俺が思わずダイナマイトを掴んでそう言うと、十代目は慌てたように俺を止める。

今更だが彼はいつもそうだ。
怪我をしたら危ないと、自分よりも格下の奴にまできちんとそのお心を配られる。
優しいのに強くて、温かくて凛々しい。
そんな姿を見る度に、ああこの方に付いて良かったと、心から思うんだ。
例え命に代えたって守りたい人だって、部下としてだけでなく、恋人としても。
そんな貴方だから、今日は誰よりも一番に沢山沢山祝いたかった。とびきりの笑顔の貴方を頭に思い浮かべながら、色々なプランを立てたのに。

「もー夕方ですね…」
「買い物いけなかったね」

ごめんねと、俯く貴方を夕日が照らすのを見て、胸の辺りが締め付けられる感じがした。
そんなことはない、十代目は悪くない。
けれど

(何か特別なこと、して差し上げられたらいいのに)

買い物という計画は見事に狂ってしまったけれどその代わり、俺だけにしか出来ないことをしたいと思った。
けれど考えれば考えるだけ何が十代目にとって特別で嬉しいことなのか、分からなくなる。
何だったら喜んで貰えるか分からなくなるなんて、右腕として情けなかった。

「獄寺くん…?」
「俺に出来ること、まだありますか?」

なんだか不安で、十代目の手を取ってそう言ってみる。
実に情けないが、分からないものは仕方がない。だから、彼に今出来ることを彼の口から聞こうと思った。

「…あ、じゃあさ、」
「はい」

少し考えるような仕草をしたと思った時には、もう十代目の顔は俺の真横にあった。耳の高さに十代目の唇がある。
ああ背伸びして可愛らしいな、だなんて気付いた時にはもう、


「ピアノ弾いてよ」


良いことを思い付いたというような少し弾んだ声と同時にかかる息に、俺は一瞬動くことが出来なかった。




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