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現代に残存する天岩戸の御本尊

 ヒマワリシティは今日も快晴だった。

 リョオウ地方は他地方に比べて比較的天候の良い日が少ないと言われている。山脈の位置や海からの風など様々な要因が折り重なった結果であり、それは年中霧に覆われているカスミシティも例外ではない。

 そんなリョオウ地方の中でも年間で晴れの多い地方が、ここヒマワリシティである。リョオウ地方の南東部沿岸に位置しているこの町は、ちょうど暖流と寒流がぶつかる地点であるため比較的気候が温暖な地域である。また山脈に覆われているため降雪量も少なく、平均日照時間はリョオウ地方一だ。

 そんな町の特色を現すかのように、現ヒマワリシティジムリーダーは天候・晴れを主軸とするパーティを繰る。しかしコンブが就任以来、その姿を直に見たことは一度もなく、月に一度の定例会もモニター越しの音声しか耳にしたことはなかった。それはコンブの隣を歩くチア子も同様で、「不動の天岩戸」の奥をはじめて拝むこととなる彼らは、少なからず緊張していた。

「なに、そんなに固くなることはないさー。単なるヒッキーだよ、ピヨっちは」

 コンブたちの前で翻る黄色い雨合羽。からからと笑うカッパは、まだ見ぬヒマワリシティジムリーダー・ピヨ助に対し身も蓋もない評価を下した。

 ヒマワリジムは町の外れに建っている。町の防犯機構を担うこともままあるポケモンジムの建つ場所がこのような場所に建っているのは珍しい。町の中心拠点から遠いためにやや不便ではあるものの、ここが町の中で一番日射量の多い地点であるというのがその理由のようだ。日中は屋根が開き、太陽光を屋内へ取り込む仕組みとなっているジムの屋根では、山から下りてきたらしい草ポケモンたちが日光浴を楽しんでいた。

 コンブたちの来訪は既に話が通っているらしく、受付での手続きはスムーズに進められた。事務員の女性からチア子にだけ薄手のケープが手渡される。

「これは?」

「お守りです。どうぞお持ちください」

 ジム内に一歩足を踏み入れた瞬間、コンブは「お守り」の意味を理解した。

 ドーム状のジム内は、太陽光を集めるためなのだろう、一部に鏡面が貼られていた。鏡面で反射された太陽光が針のように肌に刺さる。立襟のフライトジャケットを羽織るコンブでさえそう感じるのだから、チアリーダーの衣装で両手足をむき出しにしたチア子となればさもありなん、といったところだろう。早々にケープを広げて身を包んでいる。

 カッパの先導で、ジムのからくりを通過しながら最奥部に進む。カッパによれば、スイッチを切り替えて通路を作り上げていくギミックは、動力に太陽光発電を利用しているのだという。雨や曇天の日は人工太陽に切り替えてジムを営業しているというが、やはりポケモンたちが真価を発揮するのは本物の太陽光が差す晴れの日だ。

「雨使いとしては、萎びてしまいそう、とか言っておいた方がいーい?」

「どうして無理にキャラ付けしたがるんですか」

「ほら、ジムリーダーも個性派の時代じゃない」

 あなたほどの個性派もそうそういない、というツッコミをコンブは喉奥に押しこんだ。ついでに言うなら、今も昔もジムリーダーという存在は一癖も二癖もある人物ばかりである。

 雑談を交わしながら辿り着いた最奥部は無人だった。日光を遮る障害物の少ない、ベーシックなバトルフィールドが広がっている。頭上でプロペラを回す単眼の監視カメラがフィールド上を一定ルートで周回していた。プライベートルームへ続く扉へ近付いたカッパは、ノックもせずにドアノブを捻る。

「お久しゅう」

「誰もかれも、こっちがわかってると思って。ノックくらいしてほしいわ」

「でも、いらないのでしょ」

「まあ、ね」

 コンブの側からは扉に遮られて姿を拝むことはできないが、呆れたような男声が聞こえてくる。モニター越しに聞いたことのある少し高い、どこかやさぐれた雰囲気の声だった。

「ピヨっちがいつまでたっても本部に来ないから連れてきちゃったよ、新人くんたち。一度は顔合わせしておいた方がいいと思ってさ」

「新人だなんて、もう半年以上経ってるじゃないか」

「その半年以上をモニター通信で済ませてきたのは誰だって?」

 扉の向こうから反論はない。カッパはコンブたちを振り返ると、大きく扉を開け放った。

 扉の開閉の際に起こった空気の流れが、コンブの鼻孔に油のにおいを運んできた。試合前の控室であるはずのプライベートルームには、小型の作業台と数台のモニター群。モニターに映るのは空のバトルフィールドだ。

「天照大神のご本尊だよ」

 おどけて頭を下げるカッパの手が差す先には、回転椅子に腰掛ける男がいた。線が細い以外に、男を特徴付ける外見的特徴はない。ただひとつ例外を述べるとすれば。その両手首に巻かれた、まるで手錠にも似た黒いリングだった。時折、蛍光グリーンの光がジグザグにリングの上を走る。

 超能力者。そのリングを視認したチア子が、コンブの隣で小さく唇を動かした。


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