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「姉萌えなんて、二次元の中の出来事だ」

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「…で、何でここに来るの」

「だってアレスもアルも一人っ子だし、バクのところは男兄弟でしょ? 何か違うと思って」

「まあ、そりゃあ」

 じゃっくじゃっくとレグルスがかき氷を突き崩すのを横目に眺めながら、スミレとスイレンはどうしたものかと顔を見合わせた。

 ナギサシティ、ウメギ宅。基本的にはここからほとんど動くことのないスミレと、たまたま羽を伸ばしに帰ってきたスイレンの元へレグルスが訪ねてきたのは、つい数十分前のことだった。

 兄妹喧嘩を、したのだという。

 原因がどちらにあるのかもわからない、瑣末な兄妹喧嘩。

 しかし、虫の居所が悪かったのか通り物に当たったのか、普段はうまくあしらえるはずのそれがエスカレートしてしまい。

 兄は、逃げるように太陽の街へとやって来たらしかった。

 苛々していたからかはたまたそれ以外か、最愛のフランシスを研究所に置き去りにして来てしまったことから、彼の余裕のなさが窺える。

「…いや、こっちに向かう最中に、大分頭は冷えたんだけどね。何か、こんなに激しく喧嘩したのって初めてで…」

 戸惑う様子のレグルスを、スイレンはかき氷を含みながら興味深く観察した。

 彼は仲間内では年上ということもあってか主にみんなの相談役を務めていて、逆にこちらが相談される身になるとは思っていなかったのである。もちろん、レグルスの本命はスミレで、自分はたまたま居合わせただけだという自覚もスイレンにはあるのだが。

「スミレとスイレンって、喧嘩したこと、ある?」

「そりゃあるけど…小さい頃に叩きあったくらいだよね」

「…そうだね。大きくなってからはない、かな」

「そっか…そうだよね」

 肩を落とすレグルスからは、明らかに落胆の色が見てとれる。頼みの綱が絶たれたのだ、仕方ないといえば仕方ない。

「レグルスくん、ベラさんのこと殴った?」

 スミレの唐突な質問に、彼は戸惑いながらも首を横に振る。その答えに、スミレは口端を釣り上げて「なら大丈夫」と謎の太鼓判を押した。

「スミレ、それって一体どういう…」

 レグルスが言いかけたところで、タイミングよくインターホンが鳴る。

「今日は来客が多い日だな…ちょっと行ってくる」

 のそのそと玄関に向かうスミレが消えて、リビングには兄と弟がひとり。

「スイレン、わかる?」

「まあ、何となくなら」

「その心は」

「先に手を出した方が負け、ってことじゃない? 多分」

 レグルスの話を聞いているうちにすっかり溶けてしまったオレンジ色の液体を銀色のスプーンでぐるぐるとかき回しながらそう言うと、レグルスはとても真剣な表情でスイレンの話を聞いている。いよいよ適当なことが言えなくなって、スイレンは必死に言葉を探した。

「口論だけなら、どれが相手の琴線に触れたのかわからないから、いくらでもごまかしがきくけどさ。今回の場合とか特に。だけど、手を出しちゃったら、それは明らかに最初に殴った方が悪いでしょ」

 子どもの喧嘩だって、そうだよ。

 言い終わってなお難しい顔をしているレグルスに、スイレンは呆れた風に肩をすくめた。仲直りの方法なんて、構造だけならばとても簡単なのだ。実際に出来るかどうかはともかく。

「そんなに堅苦しく考えずにさ、謝っちゃえばいいんだよ」

「…うん」

「先に謝れば相手は怯んで、なし崩し的に解決するし」

「…うん、君はやっぱりスミレの血縁だね」

 ふ、とレグルスが、この家に来てからようやく笑顔を見せた。玄関の方から話し声がする。どうやら向こうも向こうで、説得に励んでいるようだった。

「それじゃあ、悩めるお兄さんに、困った姉を持つ弟から人生の名言を贈ろう」

「ありがたく拝聴しようか」

「かの偉大なる先人はこう言った。≪姉は暴君、妹は悪魔である≫」

 レグルスは一瞬、ポッポが豆鉄砲を食らったような顔をして、それからくつくつと笑い始めた。

「それは、実に言い得て妙だね」

「でしょ」

「随分楽しそうだね」

 未だ笑いを引きずる二人の元へ、スミレが帰ってきた。その後ろには、レグルスと同じ色の髪をしたツインテールがひょこひょこと揺れている。

「…あ」

 顔を真っ赤にした妹から、暴投気味ながらも先に謝罪されてしまい、兄が立場のない思いをするのは、そう幾許もない未来のことである。



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