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我輩はピッピである
白銀を駆ける

 白銀の世界をただひたすらに、駆ける。

 肌を切るような冷たい風は嫌いじゃない。耳朶を叩いた音が鼓膜に届く前に後ろへ流れていくのが心地よくて、わたしは喉の奥をくつくつと鳴らした。

『ご機嫌ね、ミスタ』

 君のおかげさ、レディ。ああ、あの大きな松の下だ、降ろしてくれたまえ。

 ふるいをかけた砂糖のような雪のクッションに、トゲキッスのカロリーヌが柔らかく着地する。わたしをいくら積み重ねても足りないほどの大きな松の木は、雪の重みを受けてアーチのように枝をしならせていた。

 ああ、失礼。自己紹介が遅れたね。

 わたしの名前はフランシス、ピッピだ。

 わたしの主はナナカマド博士の元でポケモン研究を行なっている傍ら、シンオウ神話学にも造詣が深い。今日、わたしはクリスマスリースに使う松毬を採りに、カロリーヌとハクタイの森まで足を伸ばしにきた。半分雪に埋もれている松毬を拾い上げ、持参した白い袋に詰めていく。

 カロリーヌは我らが愛すべきチビたちの片割れ、トゲピーのブリジットの実母である。普段は気ままにシンオウ中を飛び回っているが、有事の際にはこうして翼を貸してもらっている。

 楕円に似た身体から、おまけのように飛び出している小さな足を揃えたカロリーヌは、羽を畳んで松の幹に寄りかかっていた。純白の身体は新雪と紛れ、判別が難しい。もし彼女に赤と青の斑が無ければ、わたしは彼女を見失ってしまうかもしれなかった。

『ブリジットは元気かしら』

 松毬を拾うわたしに、カロリーヌは歌うように問いかける。よく転がり回っていると答えると『そう』彼女は優しく相槌を打った。気になるのなら、帰りにでも顔を見せればいいものを。

『だってわたし、気まぐれだもの。研究所まで飛んだ頃には、きっとあの子を気にしていたこと、忘れてしまうわ』

 成体としてはそれなりに歳を重ねているはずのカロリーヌは、よく言えば好奇心旺盛、悪く言えば彼女自身の評価通り、移り気が早い。それこそ、現在進行形でわたしをこの雪原に置いたまま飛び去ってしまう可能性もないではない。

『ふふふ、そんな顔して心配しなくても、置いてかないわ。だってあなたはわたしの愛しの君だもの』

 悪戯っぽく笑うカロリーヌの言葉は、嘘か誠かわからない。わたしが君と初めて会ったとき、君は既にブリジットのタマゴを抱えていたはずだがね。

『あなたは知らないかもしれないけど、トゲチックって、他のメスが産んだタマゴを奪って自分の子どもにしちゃうのよ』

 彼女の嘘は、時々嘘かわからない。松毬も集め終わったし、そろそろ帰ることにしよう。わたしが乗りやすいよう、雪の上に腹這いになってくれたカロリーヌの背にまたがると、彼女はいつ離陸したかもわからないほどのスムーズさでわたしを空へと誘った。

 それにしても、空飛ぶ君に、背中の白い袋。さながらわたしはサンタのようではないかね。

『あなたを乗せて、海の向こうまで飛んで行ってしまおうかしら』

 それはとても魅力的な誘いだが、主が泣くから遠慮しておこう。





白銀を駆ける
(愛がなくても生殖行為はできるわよ、愛しの君)
(…あまり生々しい話はやめたまえ)


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あきゅろす。
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