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月兎の献身(狡噛)



「俺を理解しようなどと思うな」

 殊更低温な声音で、狡噛が述べた。その言葉の意図を一つどころか軽く三つは先を読んで撰華は答える。

「理解しなければ愛する権利は無いとでもおっしゃるおつもり?」

 彼女の返しに狡噛は口ごもる。不器用な人だ、と思う。知能犯と呼ばれるほど、事件に対しては上手く立ち回れるくせに。色恋に関しては、この人は酷く不器用だった。それを愛しいと思う半面、とても焦れったい。

「貴方のことを知りたいとは思いますけれども、理解したいとは思いませんわ」

 視線で何故?と問われる。

「では貴方はわたくしの全てを理解できて?」

 たとえ理解してもしなくても、過去の事実やその人がその人自身であることに変わりはない。

「自分が困難なことを相手に課す権利こそ皆無ですわ。逆もまた然り」

 好きな相手を理解したいと思うのは成る程人の摂理だろう。真面目過ぎる彼はそのことをとくに畏れている。ならば自分は彼が畏れる必要がないことを思う存分わからせてやるべきだろう。

「貴方の闇が深いのなら、わたくしは貴方の闇の深さごと愛して差し上げますわ」

 だから安心して諦めて下さいな。魂ごと、手中に納めるが如く、彼女は恍惚と狡噛の頬を撫でた。それが酷く、悪魔の囁きに聴こえる。









月兎の献身
(君が見つめてくれるなら、僕は喜んで君の一部になろう。)














「わたくしが知りたいのは慎也さんの好みの服装とか食べ物とか下着の色ですわ」
「台無しだな」
「そもそも種の保存に相互理解など必要無いでしょう。愛を語るだけならうわべでも出来ますもの」
「台無しすぎるだろ」













「深淵を覗くとき〜」という台詞がアニメでありますが、この娘は深淵とか関係なしに人のテリトリーに土足で入っていくイメージです。

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