成しうる者
「馬鹿な話だ。デカって仕事は、誰かを狩り取る仕事じゃなくて、誰かを守る仕事だったはずなのにな」
どこか、遠い目をして、彼は優しく微笑んだ。根は悪い人ではないのかもしれない。きっと、今みたいに落ち着いた状態なら、彼女を撃たなかっただろうと思ってそう言えば、彼の様相が明らかに変わった。
「俺にはやり残したことがある。どうあっても始末をつけなきゃならないことが・・・!」
「こ、狡噛さん・・・!」
神経が麻痺している状態で尚も体を動かそうとしている彼の目は、獣そのものだった。
『慎也く〜ん。カッコつけてるとこ悪いんだけど、お客さまよ〜』
スピーカーから流れてきた唐之杜の声に、狡噛だけでなく常守もギクリと固まる。今までの会話をずっと聞かれていたのだろうかと思うと何やら恥ずかしさが募る。
『誰だと思う〜?』
何やら含みのある言い方に、狡噛だけでなく常守も唐之杜の声に耳を傾ける。
『撰華ちゃん』
唐之杜の呟いた名前に起き上がろうとしていた狡噛が布団にリターンする。逆再生のように綺麗なフォームだった。
(え?寝たフリ?)
『朱ちゃん、だっけ?そこのサイドテーブルにあるもの慎也くんにかけてあげてくれる?』
「え、これですか?」
『そうそう』
「え?でもこれって・・・」
テーブルの上には物が一つしかない。十中八九これで間違いないだろうが、それをかけることの意味を、若輩の常守ですら按じる。
「本当に、ここにかければいいんですか?」
『オッケーオッケー』
指をさして確認するが、間違いないようだ。初日にやらかした常守は感覚が麻痺していたのかも知れない。ええいままよ!と思いながら、言われた通りにする。
ふぁさ。と、狡噛の顔の上に白い布を乗せた。
(うわぁああああああ。わたし凄い失礼なことしてない?!)
やっておいて早々に後悔が押し寄せる。彼が寝たきりになってしまったのは自分のせいだというのに。縁起でもない。
「慎也さん!」
途端、ドアを開けて目の醒めるような美女が駆け込んできた。彼女の呼び掛けより、狡噛の知り合いなのだとわかる。
彼女は入ってそうそう、入り口付近で固まる。狡噛の顔に乗せられた白い布を見て、その手に握っていた高級そうな鞄を取り落とす。
「慎也さん・・・どうして?」
明らかに勘違いしているその様を見て、常守はアワアワしてしまう。
「どうして、わたくしを置いて逝ってしまうの」
いやいや、生きてますよ。ご存命ですよ。私、殺してませんよ。
常守は内心、全力でつっこんでいたが、思考がついていけず口に出すことができなかった。
美女がフラフラと、狡噛に近寄る。その黒曜石のような瞳からボロボロと真珠のような涙がこぼれ落ちてきて、常守は罪悪感が半端なかった。狡噛の寝ている寝台にすがるように崩れ落ちて彼女は泣き叫んだ。
「お腹の子の顔を見ずに死ぬなんてー!」
「誰が誰の子だぁぁぁああああ!」
え、狡噛さんて結婚してたんですか?と口にする前に、狡噛が光より速く否定する。
「まあ慎也さん!よかった!愛の力で蘇ってくだすったのね!」
「お前ほんとポジティブだな!」
突然はじまった美男美女の漫才に、常守は呆気にとられる。
成しうる者
(で?誰の子がどこにいるんだ)
(嫌ですわ。まだどこにもいませんわよ。『いずれ宿る予定の子供の顔を見ずに死ぬなんて』って意味です)
(あんたにゃ負ける)
(恐縮ですわ♪)
アニメ沿いです!一応最初に連載もどきを考えてたときの一話のつもりでした。
結局シリーズ短編になりましたが、ときどきアニメ沿いもかいていこうと思います。
ちなみにこれの仮タイトルは『アニメ一話』でした。サイトにアップするために一期を見直してはじめて気付きました。いや、これアニメの二話じゃん!と(笑)(20/04/07)
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