箱の石(宜野座)
「こんにちわ!お兄様」
今日もいきなりなんの前触れもなく現場に現れる撰華。
「狡噛ならあっちの大通りにいるぞ」
最早宜野座も慣れたもので、スケープゴートもとい、彼女のお目当て先に誘導した。しかし、彼女はそれまでニコニコと上機嫌だった顔が一変、宜野座を睨みながら手を腰に当てた。それを見て宜野座は、おや、と思う。反射的に古い記憶が蘇る。手を腰に当てて所謂仁王立ちをするときは、彼女が何かを不満に思っている時だ。
「お兄様はわたくしのことお嫌いになられましたの?」
「はぁ?」
素で意味がわからなかった。どういうことか、聞くのも不思議でならない。
「再会したばかりで好きも嫌いもないだろう」
「だったら!」
ずい!と顔を近づけてくる。これも、彼女の昔からの癖だ。目が悪いのかとたまに思うほど、じっと至近距離から目を合わせてくる。
「どうして笑ってくださいませんの?!」
「・・・はぁ?」
やっぱり意味がわからなかった。面白くもないのに笑えるか。というのが、咄嗟の感想だ。
撰華は宜野座の困惑も余所に、憤りが収まらないようだった。
「お兄様は再会してからあまり笑ってくださいません」
「そうか?」
絵にかいたようにムスっとしている彼女に、ふと、記憶を探る。彼女の面倒を見ていたとき。確かに彼女は幼く、よく不思議な行動を起こしては宜野座を微笑ましくさせたものだ。宜野座も今より年若かった分、些細なことが楽しく、拙さを愛おしく感じられたものだ。彼女の違和感はそれだけの年月が経ったということだ。
「昔はもっと笑って下さいましたわ」
「それは、笑える子供がいたからな」
「ちょっと!どういう意味ですの?」
撰華の素早い反応が可笑しくて、宜野座が柔らかく笑う。自分には無いと思っていた、ただ忘れていただけだった楽しかった記憶も彼女といるとつい昨日のことのように思える。
まるで宝箱の宝石みたいに
(それは、キラキラと輝いて)
ずっと奥に仕舞われたそれは、昔の美しさ宛らでーーー。
「撰華ちゃんが怒ってて、ギノさんが笑ってる・・・」
「いつもの逆ね」
「仲がいいのはいいことだな」
「コウ、拗ねるな拗ねるな」
「コウちゃん。ヤキモチ妬くくらいならもうちょっと素直になったら?」
「俺にだってあんなに笑ってくれたことはたまにしかないのに」
「ちょっとまって、それどっちに妬いてんの?!」
「ホモだちね」
「お前たち、ほんとに仲いいなぁ」
愛されギノさん。なんだかうちの縢はツッコんでばっかですね。でもよく考えたら唯一のツッコミな気がします。
仮タイトル『笑顔』
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