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縁の下の舞(狡噛)



「ごめんくださ・・・い?」

 呼び鈴を鳴らしても返事がなく、失礼ながらも勝手に上がらせてもらった撰華だったが。予想以上の惨劇を目の当たりにして思わず絶句する。

 それはとても酷い有り様だった。

 飲み干した、もしくは飲みかけの酒の缶やら瓶やらがそこら中に転がっており、スナックやピーナッツなど、これまたベタベタなおつまみたちが机の上だけに留まらず散らかっている。
 撰華の呼び鈴を無視するときは、大抵は捜査による徹夜明けか、このような酒宴のあとだったりする。つまり寝落ちしているときだ。

「慎也さん慎也さん、大丈夫ですか?」

 噎せかえるほどのアルコールの臭いの中を突き進み、ソファーの上にある毛布の塊に話しかける。
 すると、モゾモゾとそれが動き、中から黒い毛玉が顔を覗かせる。

「あたまいてぇ」

 それだけを言った毛玉に、撰華が長い長いため息を吐いた。

「お味噌汁なら飲めます?」
「ぅあー・・・」

 もはや会話にすらならない。
 とりあえず有象無象にはねた寝癖をよしよしと撫で竦めてから、撰華は気合いを入れて立ち上がる。








***








 狡噛慎也は起き上がり、一番に夢を見ている気になった。だってありえない。
 柾陸や縢が部屋に来て酒宴が始まるのはいつものことだ。たいていは柾陸が珍しい酒を入手して、縢がつまみを作ると言い出し、狡噛が部屋を提供するのだ。今回もその口で、さんざん飲み食いして(だって酒も料理も美味しいんだもの)上機嫌な彼らが帰った後に自分の部屋を振り替えってショックを受けて、そのまま現実逃避のように眠ったはずだ。
 だからこれは夢だ、夢に違いない。と狡噛が思わず思ってしまうほどに、部屋は綺麗になっていた。机の上に唯一ある、よく冷えているのだろう水の入ったガラスのについた滴が眩しい。今なら妖精の存在を信じてしまいそうだ。
 ふと、軽い足音がして、驚く。自分以外の誰かが部屋にいる事実にやっと気付いたのだ。

「慎也さん起きました?」

 ひょこっと顔を覗かせたのは勿論妖精ではなく撰華で、そういえば夢うつつに彼女と会話したことをぼんやりと思い出す。

「まだ頭痛いですか?」
「いたい」

 無意識に答えてしまってから、彼女が目の前にいる事実と部屋が綺麗な事実を必然的に結びつける。

「部屋、かたしてくれたのか」

 普段の押し掛け女房定な行動とは裏腹に、彼女はあまり狡噛の私物には触らない。しても、酒と水とスポーツドリンクだけの冷蔵庫に食べ物を補充し、それを台所で使うくらいだ。あとは彼女の着替えや私物がいつの間にか増えつつあるのが気になるくらいで、彼女が狡噛のものを動かすことはほぼ無い。
 特に奥の捜査資料がゴミのように積まれている部屋には、言ってもないのに立ち入りもしない。
 それくらいには彼女は分別を弁えているのだが、今回は勝手が違ったようだ。彼女自身もそう思っているのだろう、苦笑している。

「差し出がましいとは思いましたけれど、ちょっと流石に見過ごせなかったので・・・キャッ」
「お前は神か」

 女神というかむしろ天使だ。と思いながら彼女を衝動のままに抱き締める。

「ちょちょちょ・・・!慎也さん!?」

 そのままソファに押し倒されて、服越しに押し付けられた硬い感触に撰華は思わず背筋を強ばらせた。

「慎也さん慎也さん、ドミネーターがあたってます」
「あぁすまん」

 狡噛が撰華の下敷きになっていた上着の中からドミネーターを取り出す。ソファに放置していたため巻き込んだようだ。ゴリゴリ当たって地味に痛い。だからと言って、それを無造作に投げ棄てる様を見てさすがの撰華も呆れる。皆扱いが悪いが実はかなり経費がかかる代物だからだ。









縁の下の舞
(お風呂も沸いてますよ)
(お前は天使か)














お正月っぽくしようと思ったんですが、ぜんぜんですね。ちなみに仮タイトルは『酔っぱらい』でした。あと、本当は下ネタがあったんですけどやめました。やめてよかったと思います(笑)

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あきゅろす。
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