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愚かな賢者(宜野座)


「わたくしは、自分の子供たちに与える世界が、大人が勝手に作った世界だと失望されたくはないのです」

 自分もまだ子供の癖に。と宜野座は思う。

「お前はシビュラに不満があるのか」
「むしろ画期的なシステムだと思います。ですが人の安寧はそれで終わりではないでしょう。人はもっと苦労し、苦心し、理想を模索するべきでしょう。わたくしが探しているのはシビュラと、“人”とが共存する方法です。唯の一つも余すことなく、全ての魂が幸せで在れる社会がわたくしの理想なのです」
「そんなこと。過去、たくさんの偉人が成し遂げることが出来なかったんだぞ」
「歴史は先人たちが積み上げた尊いものです。化学にしろ医療にしろ。現代まで技術が発達したのは彼らのたゆまぬ努力があってこそ。新しい発見には常に批難が付き物だったとか。そんな素晴らしい教訓とも呼べる知恵を、蔑ろにするは愚者に違いありませんね」

 あらゆる学者が犯罪者の心理を解析しようとし、その身を闇に落としてきた。

「でも、それはわたくしではありませんよね」
「自分なら出来るとでも言うつもりか。過信は自滅を呼ぶぞ」
「出来る、とは断言できませんわね。しかし昨日までは出来なかったことが今日には出来るかもしれない。今日出来なかったことが明日出来るかもしれない。その可能性は誰にも否定出来ないことだと思うのです。そしてそれはどなたにでも言えることですわ」
「賢者は歴史に学び、愚か者は経験で学ぶという」
「では賢者が経験を積めばどうなるのでしょう」

 にやり、と撰華は好戦的な笑みを浮かべる。

「かの有名なアイン・シュタインはこうおっしゃっていますわ『何かを学ぶ為には自分で体験する以上に良い方法はない』と。わたくしもそう思います」

 撰華が両手を広げる。蒼空(そら)も飛べるのだと、歴代の教祖達がそうしたように。しかし、しなやかな彼女の白い腕は、地に磔られた聖者を思わせる。

「間違いを繰り返すのは確かに愚かでしょう。それを防ぐ為に人は歴史を紡ぎ教訓を残す。しかし我々もまた歴史の一部にしかすぎないのです。間違いを恐れて進化を止めたとき、きっと人類は滅びの一途を辿るでしょう。たとえ自分が道を踏み外し、その間違いが無意なものだったとしても、歴史の礎になれるなら」

 わたくしは本望です。と彼女が笑顔で告げた。








愚かな賢者
(できることは限られているのかもしれない。しかし、難しいということは諦める理由にはならないのだ)









宜野さんと不毛な討論をしたい人生でした。

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あきゅろす。
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