猫も杓子も(狡噛) 狡噛はベンチで目を閉じてぼーっとしていた。 毎日、毎回、殺伐とした現場ではない。今日は執行官が一人いれば事足りる任務で、全員がたまたま出勤中だったため。人手は余るほどだった。だからなんだと言われればそれまでだが、強いて理由を上げるなら、今日は寒すぎず暑すぎずポカポカとしたいい天気で、爽やかな風がそよそよと流れているのだ。つまり、気分が乗らない。これに尽きる。 ふと、視界が暗くなり、ピクリと睫毛を震わせるが、ここは断固として開けない。それが何故かわかっているからだ。 「ごきげんよう慎也さん」 やっぱりな、と、自分の勘が当たったことに、狡噛はほんの少し達成感を覚える。でも無視だ。 「寝てるんです?」 少し彼女が声を潜めた。ぎしり、とベンチが軋む音がして、彼女が隣に腰かけたのだとわかる。 そっと、細くて柔らかい指が自分のそれに絡まる。まぁいい。 肩にずしっと硬いものが乗せられる。いい匂いに免じて許す。 肘あたりに、むにゅり、と柔らかいものが腕を包む。おいコラ。 「おいコラ」 そのまま口に出した。 「・・・・・・・・・」 無視された。 今度は彼女が目を閉じてだんまりを決め込んでいる。先ほどの仕返しか。 手を繋ぐ、肩に頭を乗せる、腕を組む。いつもなら振り払うのだが、今日は何分、 「いい天気ですね」 調度思っていたことを言われて、つい見やれば、彼女はまだ目を閉じていた。薄く笑みを浮かべた白い頬を風が撫でていて、とても気持ち良さそうだったので、なんとなく視線をそらす。 空を見上げた。 今日の降水確率は0%だ。夜まで晴れるのだろう。 見上げた空は、目が眩むほど青く。しかし、その美しい青はホログラムによる虚飾だ。普段ならただの映像としてか目に写らない。 それでも、彼女と共に見る空は、ただそれだけで美しく見えた。きっとそれは、灰色の雲がかかるものだったとしても同じだろう。願わくは、彼女もそうであって欲しい。なんてらしくないことを考える。 本来、出会うはずのない二人が、同じものを見て同じことを感じることができたなら、それは奇跡と呼べるのだろうか。 とりとめもない、彼女のありきたりな台詞を、心の奥底でこっそりと噛み締めた。 猫も杓子も (右向け右の世界で) この後、二人して眠り込んでるところを縢たちに発見されてからかわれる、ってことまで考えたんですが、眠くて仕方がないのでおしまい!← [戻る] |