[携帯モード] [URL送信]
ふたりはなかよし(一係)
*『時間の問題』の直後。



 ガツン!
      ・・
「狡噛。何だそれは」
「慎也さん!お会いしとうございましたわ〜!」
    ・・
 ギノ、それは俺も知りたい。あんたは、昨日も会っただろうがそして俺は会いたくなかった。
 狡噛は自分に投げかけられる言葉の数々に律儀に心の中で返信していたが、それは相手に伝わらなかった。しかしそれは仕方ないと周囲は思うだろう。
 さて、今日も彼女は来るのだろうか、どうやって宜野座を引き離すか。と狡噛が思案していた矢先に彼女が狡噛の胴体にボディブローもとい愛の抱擁という名のタックルをかましてきた。狡噛が出遅れるのも無理はない。彼女が特攻してきたのは狡噛が護送車から降りようとしたまさにその瞬間だったのだ。そしてそのまま狡噛は彼女とともに護送車へ逆戻りし、受身をとる暇さえなかった狡噛は後頭部を護送車の座席に強かに打ち付けた(ガツン!の正体)。痛みをやり過ごすだけで手一杯だった狡噛には口を開く余裕など微塵もなかった。と、いう訳だ。

「狡噛その女はなんだ!おまえまさか逃亡を企てているんじゃないだろうな!?」
「ギノさーん。さすがにそれはないっしょー。てかあれコウちゃんまともに返事できないと思いますよ?すっげー痛そーな音したし」
「何より逃亡するつもりなら自分から護送車には入らないと思います」
「くにっち、そういう問題でもねーと思うけど」
「あのコウをぶっとばすたぁ、やるなぁ」

 一係の面々がそれぞれ自由な感想を抱いていると狡噛がなんとか上体を起こしたので、とりあえず近付いてみる。

「コウちゃん大丈夫?すんげーいい音したけど」
「あぁなんとかな」
「脳波に異常はないみたいね」
「修行が足らんな、コウ」

 冷静に狡噛の状況を分析する六合塚と征陸の横で、縢が目を輝かせた。

「あれ?てか、この娘、めっちゃカワイイじゃん!なになにコウちゃんの彼女―?」
「妻です」
「ブフォ!」

 思いがけない返答に縢が噎せた。狡噛が頭を横に振って額を手で覆った。
 頭が痛い。いろんな意味で。

「違う」
「あーそうだよね!ビックリしたぁー!」
「あぁそうですわね。未来の妻です」
「ブフォ!」
「断じて違う」
「まぁ!慎也さんたら照れなくてもよろしいのに」
「バーカ」
「・・・えぇと、なんかよくわかんないけど、面白いね〜お嬢さん♪」
「お誉めいただき光栄ですわ♪」
「なんだお前は!」

 縢が謎の強襲者に懐きそうな一歩手前で、宜野座の我慢が切れた。

「縢!何を懐柔されかけている!狡噛!はやくその女から離れろ!!」

 宜野座は一喝しながらドミネーターを少女に向けた。突然執行官に攻撃をしかけた人物とすれば妥当な行動だが、縢は少し残念に思った。彼女が自分好みの可愛子ちゃんだったからだ。しかしドミネーターの起動後に宜野座は眉を顰めた。

『犯罪係数。8。執行対象ではありません』
「な!?」

 トリガーのロックは解除されなかった。色相を見ても目が冴えるほど美しい色をしている。こうなれば宜野座になす術はない。
 仕方なく、宜野座はドミネーターを仕舞った。

「・・・チッ!君。とにかくその男から離れなさい」

 シビュラが認めた一般市民に無体な真似は出来ない。苦し紛れにそう言えば、意外にも女はすぐに狡噛から離れた。しかし今度は食い入るように宜野座を見ている。

「あら」
「な、何だ?」

 宜野座を見てなにやら納得したらしい少女に、思わず怯む。少女の瞳が黒曜石のような真っ黒だったことに、宜野座は既視感を覚えた。

「もしかして、お兄様?」
「は!?」
「やっぱり!眼鏡をされていたので一瞬わかりませんでしたけれど。間違いなく、伸元お兄様ですわ!!」
「な!?」

 「人違いだ!」と言いたかったが、その可能性は彼女が宜野座の名前を言ったことで無くなった。

「お懐かしい!わたくしずっとお会いしとうございましたわ!!」
「ギノ、どういうことだ?」

 先ほどと立場が逆転。彼女が感激して宜野座に抱きつき狡噛が状況説明を求めた。心なしいつもより狡噛の威圧感が強くて宜野座はより慌てた。

「ど、どうもこうも。なにがなんだか」

 わからない。宜野座にはまったくわからなかった。宜野座に兄弟はいなかった。死んだ母も再婚などしていない。あるとするならば、

「征陸、お、お前まさか!」
「ち、違う!それはない!」

 何故か征陸を睨む宜野座。何故か吃る征陸。

「もー。お兄様ったら、ちょっと会わなかっただけで、わたくしのこと忘れてしまったんですの?」

 じっとりとした視線に焦燥は沸くが、しかし宜野座に心当たりはまったくなかった。

「す、すまないが名前を聞いてもいいだろうか」
「そ、そんな・・・」

 さすがに名前を聞けば思いだすかもしれない。しかしそう言った宜野座の言葉に謎の少女はショックを受けたようだった。

「伸元ぁ。ほんとに覚えてねぇのか?」
「!?征陸!お前は知ってるのか?」
「まぁな。いっぺん見たら忘れられないだろ」

 何故か苦笑する征陸の横で、謎の女がレースのハンカチを目元に当てて憂いていた。

「うぅ、悲しいですわ。一緒にお馬さんプレイをした仲だというのに」
「はぁ!?」
「お兄様が馬役で、わたくしが上で・・・」
「なっ・・・な・・・!」
「鞭で叩きすぎて、記憶障害になってしまったのかしら」
「・・・・・・・・・」

 宜野座、絶句。

「ギノ、後で俺とスパーリングしないか?」
「それは今必要な会話か狡噛!」
「いい趣味してますね、監視官」
「ど、どういうことだ六合塚?!」
「俺、ギノさんは絶対童貞だと思ってたのにーーー!」
「黙れ縢!!」

 根も葉もない狂言だと言ってしまいたかったが、哀しいかな、今のやり取りで宜野座の脳裏にある人物が浮かんだ。
 馬。に、鞭。極めつけは自分のことを「お兄様」と呼ぶ人物。成る程確かに。何故今の今まで思い出せなかったのかが不思議なくらい一度呼び起こされた記憶の中の人物は強烈だった。
 しかし、一つだけ言い訳ができるのは、記憶の人物と目の前の人物は姿形がかなり違う。

「まさか・・・撰華、か?」
「はい♪」

 宜野座が自力で思い出したことで溜飲が下がったのか、サメザメと嘆いていた顔が一変、にっこりとした笑顔で頷いた。

「やっと思い出して下さいましたのね!」
「思い出すも何も。身長や服装がかなり変わっているのに分かるわけがないだろう」
「10年も経っていて服装が変わってない方が珍しいと思うのですが・・・」
「いや、すまん。息災で何よりだ。お父上はお元気だろうか?」
「はい!お兄様ったら、お父様が一緒に住もうと言ったのを断られたんですって?あの子が嘆いてましたわよ?」
「そこまで甘える訳にはいかなかったからな」
「ちょちょちょ!タイム!タイム!!」
「はい?」
「何だ縢、騒々しい」

 相手の素性を知るや否や、途端に話に花を咲かせだした宜野座と強襲者に縢は待ったをかけた。

「えっと・・・結局、二人はどんな関係なの?」

 縢の至極まっとうな質問に、二人は顔を見合せ、同時に口を開いた。

「シッターだ」
「婚約者ですわ♪」
「えぇっ?ど、どっち!?」

 かなり違うぞ。

「コイツが幼い時にシッターのようなことをしていたことがあったんだ」
「婚約者ってのは?」
「彼女の両親と、俺の・・・両親が勝手にした口約束だ。そんなものとっくに無効だろ」
「つまり『元』婚約者ですわね」
「俺は認めてない!」
















ふたりはなかよし
(で、結局二人はどーゆー関係になるの?)
(んー、『幼馴染み』ぐらいが妥当なところだろうなぁ)
(つーか、エリアストレス上昇の原因見つけてさっきドローンに引き渡したんだが、先に帰ったら不味いか)
(不味いわよ)





















みんななかよし!
狡噛さんに「バーカ」って言われたかったのと、隠し子疑惑を向けられて慌てる征陸さんがやりたかった。
ギノさんと幼馴染み設定は今回が初お目見えですね。何気に二人の絆は強かったりします。
ていうか、お前らちゃんと仕事しろ!

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!