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悪夢からの(狡噛)





(思い出せーーー)









 ーーー人は弱い。まるで、坂を転げ落ちる石の様に、楽な方へと堕落する生き物だ。









 ハッと目が覚めた瞬間、狡噛は大きく息を飲んだ。
 肺が破けそうなほど空気を吸い込んだ為、胸がピリッと痛んだ。心臓が忙しなく動いて血液を循環させる音を耳の奥で聞いた。

「どーかされましたー?」

 とたとた、と軽い足音をさせて撰華が部屋の入口から顔だけを覗かせる。そういえば、今日は彼女が来ていたのだ。ひょいっと覗かせた顔の下でオタマも壁からはみ出しているあたり、料理中のようだ。

「少し、な。夢見が悪かったんだ」

 佐々山が死んだ時の夢を見た。と言っても、彼女には分からない。なんと言えばいいのか分からずそう言えば、彼女はあっさりと、

「はぁ、そうですか」

 それだけを言った。興味どころか顔色一つも変えないそれに、慰められる。
 センチメンタルな気分のとき、彼女はわりと淡白に接してくるので、逆にそれが有り難い。変に心配されると対応に疲れる。ほっておいてくれたほうがいい。

 しかし、今回は勝手が違った。

 入口から顔を引っ込めて軽い足音が遠ざかったと思ったが、暫くすると、急に視界が暗くなり、脚に重みがかかる。びっくりして顔をあげれば、撰華が膝に乗り上げて不穏な笑みを浮かべていた。先ほどの離れていった足音は、オタマを置いてきた音らしい。純白のエプロンを付けたままの彼女が這うように自分の膝に手を置き、ゆっくり上へと滑らせている。これはいったいどういうことだ。

「イチャイチャしましょう」
「は?」

 のっそりと首の後ろに両腕を絡めさせながら彼女が言った台詞がわからなかった。イチャイチャとか死語にもほどがある。いや、意味はわかるが、意図がわからない。とりあえず、愉しそうな表情は落ち込んでいる人間を慰めるものではないと思う。

「怖い夢を見て悲しくなったときは人肌が恋しくなりますでしょう?」
「おい、どこ触ってるんだ」

 あら。と、撰華が心外そうな声を上げる。

「お嫌いですか?」

 お好きですけど。

 冗談抜きで夢の余韻が吹っ飛んでしまい。昔、どんな無惨な現場でも女の尻を追いかけてた奴に不謹慎だと叱りつけたものだったが、人のことは言えないな。と、ひとり、苦笑する。

 人は快楽に弱い。

 でもきっと、逆の立場ならアイツも同じ気持ちだったはずだと思えば気が楽になった。









 自分の背を掴む彼女の小さな手のひらが少し震えていて、それを愛しいと思えば、それがまた辛い記憶を薄れさせた。
















悪夢からの
(失ったものよりも残ったものを)




















からのイチャイチャでした。元ネタはラジオで狡噛さんの中の人がNGにされたエロボイスからです。(笑)
真面目に解説をすると、本当はヒロインは志恩先生のような手練手管はなく、一緒に泣いたり笑ったり、そういうことをしたいのですが、狡噛さんは別に慰められたい訳ではないということに気付いているが為に、一生懸命悪女を演じている。と、そのことに狡噛さんも気付いていて、その思い遣りに慰められている。という話です。
あと、小ネタですが『イチャイチャ』という単語もこの時代では(今の時代でもですが)、かなり古めかしい表現であると思うので(今でいうナウい的な)、ヒロインが照れ隠しに使いました。


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あきゅろす。
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