嘘だろのり子さん!(狡噛)日記ログ 「俺の後輩になるなら執行官になりたいのかあんた」 「最初は監視官の方がよいかと思いましたけど、よくよく考えたら執行官のほうが普段からずっと一緒にいられそうですわね」 誰と一緒にいるつもりなのか、はスルーだ。 「まぁ、あんたならいい執行官になりそうだな」 普段の素行はともかく、わりと誰に対しても落ち着いて接する彼女。感もいいし、度胸もある。現場の方が向いているかもしれない。 「でも一つ問題が」 悩ましげに頬へ手を添える姿からは育ちの良さが伺える。曲がりなりにも官僚の娘が執行官なのは家柄上まずいのだろうか。 「わたくし、犯罪係数が足りないんですの」 よかったじゃないか。偏差値が足りない受験生のように残念がる方がおかしい。 「あんたならあと2年もすれば犯罪係数が規定値を越えるんじゃないか?」 「慎也さんてほんっとわたくしに対して失礼ですわよねっ」 もうっ!と憤慨する様子は年相応で可愛いとは思うが。生憎と見目の麗しさはサイコパスとは関係ない。 「こう見えてわたくし、犯罪係数はアンダーなんですのよ?」 「うそをつくな」 「なっ、なんでしたらドミネーターで測ってくだすってもよろしいんですのよ!?」 そう言って忍ばせている懐へ手を入れてくる彼女をデコピンで返り討ちにする。 子どもからおもちゃを取り上げるようにドミネーターを掴んで彼女の手の届かないところまで持ち上げる。本当に何をしでかすかわかったもんじゃない。 彼女が持ったとしてもユーザー認証がエラーになるので使えるはずはないと知ってても気分のいいものではない。 「これはあんたが思ってるよりずっと危険なものだ」 「そんなの存じてますわ。何度も拝見しておりますもの」 痛む額を押さえながら膨れる彼女に、それでも、と諭す。が、珍しく彼女の方が聞き分け悪く折れてくれない。 「わたくしサイコパスは毎日測定しておりますから犯罪係数の低さは折紙付きですのよ!」 なんだったら家の者にたずねていただいても構いませんわ。 どうやら彼女の空よりも高いプライドを刺激してしまったようだ。そこまで言わしめるのだから嘘ではないのだろう。 「門に計測器をつけてますから外出時と帰宅時には毎回サイコパスを計測して規定値を越える者は家族でも入れない仕組みにしておりますのよ」 「家族でも、か」 「家族でも、です」 定められた規定値とやらの詳しい数字を聞けば確かに一般よりも随分と厳しい。 嘘みたいな家訓だが、そんな嘘をつくメリットは彼女にない。本当のことなのだろう。だがしかし、そうなると。とどのつまり、彼女を信じるとするならば、その言葉が真実、ということだ。どの言葉というと、彼女の犯罪係数は低 「うそをつくな」 嗚呼、自分はこれほどまでに自分に正直だっただろうか。思考の片隅ですら、彼女の言い分を認めない自分に若干大人気ないなと思いつつも認められないものは認められないのだと納得する。目の前の少女が酷くショックを受けた顔をしてるが、自分にも僅かにあったらしい刑事としてのプライドがどうしてもそれを許さないのだ。 「し、慎也さんがこうまで分らず屋だったとは・・・!」 「なんだ今頃気付いたのか?」 自分はどちらかというと相当な頑固者だと思う。わなわなと理不尽な否定に震えている少女に可笑しくなったので笑ってみせると、彼女の動きが一瞬だけ止まった。 「ていっ!」 が、それはあくまで一瞬だけで、すぐに体当たりをかましてきたかと思えば、隙をついてドミネーターを持つ手を掴むと反対の手を使って銃口を自分の額に向けたのだ。血の気が下がった。 殺人銃を己に向けて笑みを浮かべた彼女に対してもだが。その後ドミネーターが発した犯罪係数にも、だ。 嘘だろのり子さん! (彼女の浮かべた笑みがひどく勝ち誇ったものであることにも、また) 掲載日(12/11/06) タイトルがふざけすぎな件。だが後悔はしていない← [戻る] |