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Oh my son!(狡噛)



 革と皮膚とがぶつかる渇いた音が何度も響く。セラミックで構成されている樹脂が極度の体重付加により軋む。それは渇いた音がたつたびに連鎖して悲鳴をあげた。それらは繋がっているのだから当然だ。

「撰華」
「何でしょう」

 撰華は呼ばれてうっとりと見上げた。狡噛は額に流れる汗を手の甲で拭いながら、荒くなった息を深く吐き出して整える。
 じとりとした視線で彼女を見下ろすと呆れたように言った。

「よだれ。垂れてるぞ」
「あらやだ失礼」

 やはり、一応は乙女。指摘されて慌てて口許を浄める。が、しかしすぐにまた緩んだ顔で狡噛の肢体を眺める。

「そんなに俺は美味そうか?」
「はい。蜂蜜をかけてもいいですか」
「・・・・・・・・・」

 即答だった。冗談だったが僅かに身の危険を感じる。しかも記憶が確かなら、疑問系ではなかった気がする。腹筋の括れた部分を凝視してくる彼女が何を想像しているのかを考えて考えたことを後悔した。何故蜂蜜。

「お前もやってみるか?」
「え?」

 今まで散々なぶっていた黒い袋を手の甲で軽く小突く。椅子で座って眺めるだけだった彼女がきょとんと見上げる。

「わたくし・・・ですか?」
「あぁ。あんたも武術の心得があるんだろ?」
「えぇ、まぁ」
「見てるだけってのも退屈だろ。試しにどうだ?」

 そう言って差し伸ばされた手を撰華は無意識に掴んでいた。温かくて大きな手だ。あぁ。また一つ、好きになる要素が増えた。
 おずおずと歩く彼女の小さな手を引き、サンドバッグの前へエスコートする。存外戸惑う彼女に、まるで初めての社交場で壁の花に徹する乙女を拐そうとする悪い男のようだと苦笑する。
 しかし、彼女の柔らかい手の皮膚を感じるに、砂の塊をぶたせるのは確かに悪い男の所業に思えた。サンドバッグの前に立つ彼女が珍しく躊躇う。

「サンドバッグはあまり相性がよくないのですが・・・」

 ちらりと、狡噛を伺いながら零した彼女の言葉に、トレーニングに相性なんてあるだろうかと疑問が浮かぶが、確かに彼女はどう見てもパワーファイターではないなと納得する。

「わたくしの場合は打撃というよりも『一撃必殺』なんです」
「んん?」

 『一撃必殺』?なんだそりゃとまた疑問が沸くが、それは次の一瞬で、文字通り瞬く間に解決した。
 彼女が静かに大きく息を吸う。

「哈ッ!」

 撰華が拳をサンドバッグに叩き込み、ずぱぁん!という高らかな音が鳴り響くが、サンドバッグ自体はあまり揺れることはなかった。しかしその代わりにサンドバッグのちょうど真ん中あたりから血飛沫ならぬ砂飛沫が上がる。彼女の拳はサンドバッグを揺らさない代わりに、打ち付けた勢いのまま、それに呑み込まれていた。彼女の拳と同じ大きさの小さな穴から、自重でみるみる裂けていき、狡噛手製のサンドバッグは真っ二つに千切れてしまった。

「こんな感じに、すぐ壊れてしまうので、サンドバッグは相性がよろしくないんですの」
「お・・・おっ・・・!」
「『お』?」









Oh my son!
(俺のサンドバッグ!)








 思わず叫んだ。














某プロファイリングを読んで、狡噛さんのお気に入りが手作りのサンドバッグとあったので、ちょっとぶっこわしてみました(最低)。最近、狡噛さんを虐めたくてむらむらします(最悪)。

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