正しいこと(狡噛)
「刑事になった時、何を思った?」
狡噛の唐突な問い掛けはいつものことで、撰華は慌てることなく、ゆったりと視線を返した。
「相変わらず、面白い質問をなさるのね」
彼は同じ刑事の中でもずば抜けて明晰である。その能力にみあって思考回路も並みでなく、たまに人を混乱させる帰来がある。
狡噛は自分の疑問を面白がっている撰華に心外だと肩を竦めた。
「純粋な興味さ。何を思ったんだ?」
「とくに、何も。強いてあげるなら『正しいこと』をしたい、と」
「あんたらしい」
理性よりも本心を暴かれる今の世の中で、正しくあろうとすることは何より難しい。それを彼女もわかっているだろうに。彼女はいつだって、簡単な道と困難な道とがあれば、迷わず後者を選ぶ。
「あんたにとって『正しいこと』って何だ?」
「ふふ。今日の慎也さんはずいぶんと知りたがり屋さんですわね?」
ニコリ。と、嫌な顔一つせず、彼女は一度微笑んでみせると、前を見据えた。
「それも・・・わかりません。わたくしの思う正しいことと、人の正しいことは違いますもの」
人によって価値観は違う。シビュラもまた然り。故に正解はない。
「それでも、組織に与されるからには、信念を持とうと」
不意に此方を見据えて口角を上げる。あどけなさの残る顔に計り知れない気色を感じてどきりとする。
「『正義』は、胸に秘めるくらいがちょうどいいそうですわよ」
気障な口振りに笑った。
正しいこと
(名前のない答え)
『踊るfinal』を見て浮かんだ話。
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