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気まぐれ猫のしつけ方(狡噛)



「おじさまー!」
「おぉー今日も元気だなーお嬢様は」
「おじさまは相変わらずダンディーですわ♪」

 弾丸のように飛び付いてきた少女をよろけることなく支えてのけるのは流石としか言い様がない。

「しかしあのちっちゃかったお姫様がこうも重たくなるとはな〜」
「あらおじさま!女性に『重い』は禁句ですわよ!」
「そぉかー?おっさんは抱きつかれるならあちこち出っ張ってるほうが嬉しいんだがね」
「まぁおじさま!それって『オヤジ発言』ですわよ!」

 出会い頭に抱きつくのはどうやら彼女の癖らしい。自分に限ったことではなく、征陸や宜野座にも臆することなく彼女はスキンシップをはかっている。

「慎也さーん」
「うっ」

 ドフッ、と勢いよく背中に質量のあるものがぶつかる。不意打ちはやめて欲しい。

「腰はやめてくれ」

 痛めたらどうする。狡噛がボソボソたしなめる。腰にしがみついた撰華がフムフムと頷く。
 現代の医学なら数時間とかからず、治療できるが、腰は一度やると癖になるそうだ。恐ろしい、と思う。三十路間近の男には。

「でしたら前からならよろしいですか?」

 よろしくないです。

 狡噛の意見なんてガン無視で腰に手を回してギュッと前から抱きついてくる。身長差のせいで首は痛いだろうに、見上げてくる顔は満面の笑みだ。

「・・・」

 別にその笑みにほだされたわけではない。ほだされたわけではないが、ちょっと興味が沸いたのだ。



 ぎう。



「え・・・?」

 ぎゅぎゅう〜。

「あ、あの・・・慎也さん?」

 彼女の腰に腕を回して締め付ける。それは細く、少し力を籠めれば折れてしまいそうに頼り無げだ。ふくよかな柔らかさが自分の胸板で潰れる感触に思わず目を閉じる。しかし途端に目眩を覚える甘い香りが鼻腔を擽り、やり過ごそうと閉じた闇が余計にそれを強調するので目を開いた。

「あんた細いな。ちゃんと食べてるのか?」
「平均的かと・・・ってそうではなく」

 ボッ!と、瞬間湯沸し器のように頬を真っ赤に染めた彼女を見て、意外な反応だと感心する。
 いつも彼女が抱きついても、振り払うか無視するかの狡噛である。最近は諦めがついたのか後者である場合が多いが。しかし、狡噛が彼女を引き寄せるという所作はまったくの初めてなのだ。
 可笑しい。いつも自分からしている行為なのに背中に当たる手の感触がこそばゆい。彼の背中部分のコートを掴む自分の掌がじわりと汗ばむのを撰華は感じた。途端に、自分が道の往来にいることを思い出す。

「し、慎也さん、人が見てます、から」
「ん?あんたいつもそんなこと気にしないだろう」
「そ、です・・・けど」

 腕の中で居心地悪そうに捩る身体を逃がすまい、と捕らえる。自分でもよくわからない高揚を狡噛は自覚していた。計算ではないだろうに、しおらしい様は男の加虐心を助長する。
 止めと言わんばかりに耳元で囁いてやる。

「これに懲りたら男に抱き着くのは控えるんだな」

 ついでに息を吹き込んだら猫の鳴き声みたいな悲鳴で跳ねた後、すごい勢いで彼女が頷いた。














気まぐれ猫のしつけ方
(忠告には用心せよ。この忠告に対してもだ。)














「おいコウ。年寄りの楽しみを奪うものじゃねぇぞ」

 言いながら、楽しげな笑みを隠そうともしない征陸に狡噛も同じく笑みを返す。

「悪いなとっつぁん。デカとして、未成年の行動を正すのも仕事の内だからな」
「デカとして、ねぇ・・・」
「給料分の仕事だろ?」

 その問いに、征陸は肩を竦めることで応えた。





















抱き返されてアタフタ。
そういえばアニメが放送される前にヒロイン設定を練ってた時、女子高生に付きまとわれてアタフタする狡噛さんが書きたくてこのヒロインにしたなということを思い出しました。

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