僕が君に懐くワケ(佐々山)
「あー疲れたな〜今日もよく働いたな!狡噛!」
「いや今日は比較的に簡単な仕事だったぞ」
いつもは帰るのを渋って寄り道をしようとする佐々山が今日は意気揚々と刑事課へ足を進めた。それだけでも疑問符を浮かべるのに、更に彼は労働した自分たちを労ろうとしている。
「馬っ鹿かオメー!市民の安全を守るのに、簡単もむつかしいもあるか!」
どうしよう。佐々山がまともだ。
いつもなら、簡単だった案件に対しては「刺激が足りない」だの、「足を運び損」だの、ぶちぶち文句を言うくせに。
何か企んでるのかと思いきや、サイコパスは安定している。少し興奮気味だったのが気にかかったが。
いつもより明るい表情の佐々山は、機嫌がいい、というよりは何かを楽しみにしているようで少しソワソワしている。
「おっ来た来た」
ふと、公安局の建物に入った瞬間、佐々山が溢した台詞に前を向けば、人通りの少ないエントランスに見知った顔がある。
「撰華チャーン♪」
壁の端にある掲示板にもたれるようにして撰華が佇んでいた。
呼ばれて、こちらを向いた撰華が、佐々山を確認してパァと表情を明るくさせる。何か約束してたのかと思ったが、撰華はすぐにサッと背を返し、壁の角に隠れた。しかしちらりと顔を半分覗かせてくる。なんだそれは。
「やっべーさすが撰華チャン・・・完璧だ!」
どうやらわかるらしい。
狡噛には理解不能だったが、何やら完璧な動作らしい撰華に向かって佐々山が両腕を広げてみせる。それはもう満足そうに。
「おいで〜!撰華ちゃん!」
だからなんなんだそれは。
しかしその言葉が引き金だったらしく、撰華が弾かれたように飛び付いてきた。
「おかえりなさい!みつるお兄さま!」
「ただいま!撰華ちゃん!」
おいコラ。
「マテマテマテ」
抱き締め合ったまま、茶番を続けようとする二人に、狡噛は待ったをかける。
「お前らに血縁関係はないだろう」
「馬っ鹿かオメー!美少女に『お兄様』って呼ばれるのは男のロマンだろーが!」
「わかるかボケ」
とりあえず、撰華を抱き締めたまま離そうとしない佐々山から引き剥がして、蹴倒しておいた。
僕が君に懐くワケ
(俺は女好きが高じて潜在犯落ちした男だぜ?)
(死ね)
「今日のおしごとがんばったら『ごほうび』あげますって約束したんです」
「それが『お兄さま』なのか?」
「みつるさんのリクエストですわよ」
「最初の壁に隠れたりは」
「それはわたくしなりのサービスです」
(サービス・・・)
ちょっとこの娘の将来が心配になった狡噛だった。
懐きました!(早ッ)
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