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兎追いし彼の山(佐々山+狡噛)



「まさか・・・」

 いとけなく、つやめかしく、囁く女が一人、それに対しデスクに向かって一心不乱にタブレットを叩く男が一人。女はその膝で、その首に腕を回し、その逞しい胸板に身体を預けている。まるで、仕事ばかりにかまける男に甘えて邪魔をしている女のような構図だが、その実は全くの逆である。

「光留さんは、この、わたくしが膝に鎮座しているのに、仕事が捗らないとかおっしゃいますの?」
「はい!今日中に終わらせます!すいません!」

 ヒタヒタと頬に鞭(教鞭っていうの?あれ)を軽く触れさせてくる少女に男───佐々山光留───は、冷や汗ザーザーだった。





***





 しかし、総合的には良かった(しっかり太ももは堪能した)出来事を反芻して、佐々山はしみじみ思う。

「・・・昔は『みつるお兄さま(ハート)』って呼んで喜んで膝に乗ってきてたのになぁ」

 デスクから少し離れたところで宜野座と話している撰華の躰を不躾にも眺めながら、佐々山が昔を懐かしむようにこぼした。

「お前が無理矢理呼ばせてただけだろ」

 向かいの席の狡噛がすかさずつっこんでくるが黙殺。視線は依然として撰華の脹らみに向けたままである。

「あれから何年だっけかー?」
「5年だ」

 撰華が公安局へ入局したのは確か彼女が11歳のときだ。類い稀なる能力をシビュラに認められて、8年もの時間を省き、彼女は刑事になった。ランドセルを背負った子供が自分達の同僚(執行官にとっては上司でもある)になると知ったときの衝撃は今でも覚えている。

「たかいたかいもしたし、おんぶもだっこもしてあげたのになぁ・・・」
「そうだな」

 佐々山はとくに子供好きだったわけではない。だが、男の子供ならいざ知らず、それが女とくれば『女好きが高じて潜在犯になった男』を豪語する自分にとっては充分愛でる対象だ。しかも美少女とくれば、将来を視野に入れるものだ。とんでもなく可愛がった。

「なんだこの乗ってやると思ってたのにいつの間にか乗られちゃってたみたいな感覚」

 まあ実際に乗られてしまったんだが。

「例えは最低に糞ヤローだが、確かに尻に敷かれてるよなお前」
「マジで!?」

 狡噛の指摘に本気で吃驚する。気付かなかった。自覚症状皆無だ。
 あれから5年。時の流れとは残酷なものだ。否、あの素晴らしい肢体を育んでくれたことにおいてのみ、感謝はするが。
 佐々山の理想通りに撰華は成長した。それなのに何をうにゃうにゃ言っているかというと。彼女が膝の上に乗ったとき、その感触に佐々山は満足した。素晴らしい肉感だと思った。しかし同時に一抹の寂しさを覚えたのだ。
 喪失感、というのだろうか。潜在犯となり落ち、執行官となってから、最早失うものなど何も無いと思っていた自分には久しい感覚だった。
 それを人間的な自分は嬉しいと思う半分、獣的な自分はいい女の誕生を心から喜べないと悔しがる半分。


 要するに、「お兄さま」は複雑なんです。









兎追いし彼の山
(こんなことなら最初に唾つけときゃよかったぜ)
(おい誰かドミネーター持ってこい)















「撰華ちゃんが膝の上に乗ってくれたら仕事もはかどるかも〜なぁんちっ」
「構いませんわよ」
「て・・・って、え!?マジで!」
「勿論ですわ♪今日中にこの仕事を終わらせて下さるんですもの」
「よっしゃー!!!・・・・・・え、今日中?」
「ほんとうに素敵♪」

 からの、冒頭である。













佐々山さんドミネーターで撃たれますよ!(自業自得)ヒロインが今回使ってた鞭は先生が黒板を指す為のじゃなくて競馬の騎手が馬を叩くときに使う黒いののイメージです。
ヒロインは前話のあとがき通り、飛び級で監視官。しかも小学生からという厨二設定。たぶん座右の銘は『飴と鞭』(笑)
小さい頃は一係のみんなに可愛がられて懐いてたんじゃないかな。
たくさん遊んであげたのが佐々山さんで、たくさんフォローしたのが狡噛さん、たくさんお世話したのが宜野座さん、たくさんおやつをくれたのが征陸さんだったらいいな(笑)

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あきゅろす。
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