護る人(佐々山)
そろりそろりと背後から近づいて手を伸ばす。足音は立てない。うむ完璧だ。
目の前で左右に揺れるなだらかなフォルムまであと数センチ。勝利は我にあり。
・・
しかし、それに触れる直前、佐々山の背筋を、ぞわっと悪寒が走り、本能で手を引けばチュインと高速で指先を何かが掠めた。
見れば伸びていた爪が少し平らになっている。
「あら光留さんったら、危ないですわよ。気配を殺して人の背後に立つと」
「いやいやいやいや!」
可笑しくねぇ!?
伸ばした手の先にいた彼女が白々しく振り返るのを見て、佐々山は己れの数少ないボキャブラリーを総動員して物申したくなった。
「どっから出したんだよそれ!?」
佐々山のいうそれ。撰華の手の中にはいつの間にか抜き身の短刀が握られていた。
しかもこの人今全くこっち見ていなかったんだけど。後ろに目があるのか。
「どこって、ここですわ」
そう言って、胸の谷間に人差し指を入れると、少し手前に引いた。白い肌に同じ色の鞘が挟まれているのが見える。おっとラッキー。じゃなくて!
眼福眼福と弛みそうになる鼻の下を引き締めて、佐々山はつっこんだ。
「犯罪じゃん!」
明らかな銃刀及び危険物所持である。
「まぁ、失礼な。護身用ですわよ」
「護身用!?」
その割りに、切れ味は始末する気満々だったが。佐々山は思わず短くなった中指の爪先を親指の腹で撫でる。ぞっとするほど滑らかだった。
「ご存知ありませんか。これは護り刀といって、戦国時代の貴族の女性が護身用に持っていたものですのよ」
「お嬢さん。頼むから今を生きてください」
サイマティックスキャンにて思考を数値化できるようになった今では、武器の所持は犯罪係数を上げる要素にしかならない。護身術も然りだ。しかし、目の前の女性はシビュラの神託など柳に触れる微風のように気に留めない帰来がある。
「なーんでサイコパスが濁らないかねぇ」
「大切なのは道具を持っていることではなく、それを何のために使うか、だからでしょう」
殺傷能力のあるものを所持しているだけで濁るなら、包丁やハサミだって持てないですわよ。と言われて、なるほど、と思う。
「よかったら光留さんのも設えましょうか」
設える、とは、佐々山の分も用意できる、ということだろうか。
冗談、なんだろうが、佐々山は苦笑してその申し出を断わる。
「いやぁ〜俺ぁお姫様と違って不器用だからなぁ〜」
「あら、残念ですわね」
他人へ分かりやすく誇示出来るのは『力』だ。それを持ちつつ、使わないでいられる自信はない。
護る人
(俺は弱いから、きっと使ってしまう)
「因みに護り刀は敵の手に落ちたときに自害する為に使われていたらしいですわよ」
「あれ?もしかして遠回しに死ねって言ってる?」
「次は爪の手入れだけで済むとお思いですの?」
「すんませんっしたー!!」
爪だけで済んだのはどうやらまぐれじゃなかったらしい。
『もしもヒロインと佐々山が同じ空間にいたら』という話でした。ラジオドラマのお蔭でばっちり佐々山ハザードに陥ってます。
この話自体はあまりどういう状況なのかとかは考えずに作りました。
この場合二通りの状況がありますね。標本事件の前にヒロインたちが出逢ったルートと、時間軸は同じだけど何故か佐々山生存ルート。個人的には原作をねじ曲げるときは必ず何かしらの外的要因、このサイトの場合は夢主などのプラス要素がないと納得できないという面倒臭い拘りの持ち主なので、シリーズ化するなら前者かなと思います。
佐々山さんが生きてるので勿論狡噛さんは監視官です。監視官狡噛さんとヒロインの絡みも書いてみたいですね!たぶん今以上に真面目で融通きかないんだろうな!(ワクワク)
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