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裏の裏は表(狡噛)



「俺はおまえが嫌いだ」
「え?」

 唐突に言われた台詞が理解出来なかったのか撰華が聞き返す。聞き取り辛い音量でもない、難しい言葉でもないはずだが。

「いい加減、付きまとわれるのはうんざりなんだ」
「なん、で・・・急に」
「急に?俺はずっと、あんたに食指は動かないと言ってきたはずだが?」

 そうだ。狡噛はずっと撰華の想いを受け取れないと突っぱねてきた。それでも、強く拒絶されないことをいいことに、押し掛けまくっていたのは自分だ。

「あんたの顔も体も俺の好みじゃないし、悪いが女として見たこともない」

 降りかかる言葉を頭が理解する前に、じわり、と目頭が熱くなる。

「すまん」

 ふと、撰華は微かな煙草の匂いと柔らかな温もりに包まれた。視界が暗くなり、それがたった今、自分を罵倒していた男の肩に押し付けられたからなのだと気付く。拒絶から抱き寄せられて、目をぱちくりとさせる。その拍子に、熱い滴が目尻からぽろりと溢(こぼ)れた。

「嘘だよ」

 また、え?と撰華が顔を上げると、苦笑した狡噛と目が合う。涙の跡を拭うように指の腹で頬を撫でられる。その柔和さには先ほどまでの剣呑さはない。

「今日が何の日か知ってるか?」

 その言葉に撰華は狡噛の胸を叩いた。
 昨日は月末だった。そして今日から新年度だ。

「もう!酷いです!」
「すぐに気付くと思ったんだが」
「そんな古い悪習、ご存知の方はもうほとんどいませんわよ。わたくしは知っていますけれども、嘘の内容が悪質過ぎます」

 怒りと安堵からか、また撰華の両目から涙が、じわり、と溢(あふ)れてきた。

「き、『嫌い』だ・・・なん、て・・・」

 震える声をそれ以上聞きたくなくて、狡噛がもう一度彼女を抱き寄せる。額に、こめかみに、つむじに、宥めに、何度も髪越しに口付ける。
 しばらくして落ち着いた撰華が、逞しい胸板に泣いて上気した頬っぺたをぺたりと押し付けながら、掠れるような声で囁いた。

「嘘でも『嫌い』だなんて言わないで下さいまし」
「わかった。二度と言わない」

 思いがけず、泣かしてしまったことへの罪悪感から、慰めにその背を撫ぜる。

(俺も大概、歪んでるな)

 彼女はまだ気付いていない。今日は嘘をつく、もしくは嘘をついてもいい日。つまり、狡噛の言葉は『逆』なのだ。と。
 腕の中に収まってる彼女に満足感を覚えながら、狡噛は己れの確固たる邪な想いにそっと蓋をする。









裏の裏は表
(天の邪鬼の精一杯な告白)














 少しでも油断すればすぐに顔をもたげてしまうそれに、どうか気付いてくれるなよ、と切に願う。













建前が無いとこれぐらい強く拒否することも、告白もできないヘタレというオチでした。
明日アップするとバレバレだけど、次の日にアップするのは間に合わなかった&出遅れた感があるので早めにアップ。日付を間違えたわけじゃないよ!
アニメ三話を見た後だと、狡噛さんがドSになりがちです。でも悔しい、見ちゃう←
「嘘だよ」はラジオのを少し優しくしたイメージ(という妄想)で。
朱ちゃんが入局するちょっと前の話。ヒロインは春休み(あるのか知らんけど)で泊まりにきてました。


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あきゅろす。
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