芽生えた感情は(狡噛)
『んだコラ』
ぶふ!と飲んでいたコーヒーに噎せた。別に熱かったわけではない。歳のせいでもない。
「あらメール」
撰華はそれには気にもとめず、いまだ悪態をつく携帯端末を操作する。
「おい」
「はい。なんですの?」
にっこりと見上げてくる目は確信犯だ。もう柄の悪い着信音は聞こえなくなっていたが、その気だるげな声には聞き覚えがあった。つーか聞き覚えも何も。
「俺の・・・声か?」
若干弱腰なのは自信がないからではない。今のは紛れもなく自分の声だ。ただ、彼女がどこでそれを入手したのか、何故入手するに至ったのか。それを思うと知りたいような知りたくないような葛藤が生まれるのだ。
「えぇ、慎也さんの生ボイスですわよ」
ほら。と言って、また彼女が音声を流す。途端、自分の不機嫌そうな声が何度も流れてきて恥ずかしい。思わず彼女の端末を手で掴む形で止めさせる。
「ど・・・!・・・な・・・・・・っ!」
「『どこで』?環境省の知人にお願いして環境整備ドローンに録音されていた音声をいただきましたの。―――『なぜ』?」
ほとんど言葉として機能していない音の端々を正しく拾い上げ、さすがに画像はいただけれなかったんですけれども。と、残念がる顔が一転、眼に剣呑な光りを宿らせる。
「朱さんに聞きましたのよ」
一目ではご機嫌に見える満面の笑顔だが、猟犬の鼻は感じとる。それが底の見えぬ静かな怒りを孕んでいることを。だって目が笑ってない。わたくしに言わせるんですの?といわんばかりだ。
「デート、なさったんですってね?」
朱さんと。
その声の冷たさにゾッとした。自分は悪くないと冷静な部分の頭が考えるが、どうしようもない焦燥がわくのも止められない。
「し、仕事の一貫だ・・・」
「でも、二人っきりでしたのでしょう?」
楽しかったですか?
止めの言葉が容赦なく突き刺さる。
芽生えた感情は
(別に怒ってないですわよ?)
「怒ってません」
「本当に?」
「ほんとのほんとです!」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ただ」
「ただ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・ちょっと拗ねてるだけです!もうっ言わせないでっ!」
「・・・・・・・・・」
ちょっと胸がキュンってした。
「んだこら」に禿げ萌えた。着ボイスほすぃ。
あと、この話にはアニメのネタバレが若冠含まれております。(遅!)
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