愛すべき×××(佐々山)
「狡噛ー。今日とっつぁんがいい酒はいったからくるか?だってー」
「悪い。今日は遠慮しとく」
狡噛慎也も刑事課に配属されてもう6年。すっかり新人だった頃の初々しさは見る陰もなく、後輩も続々と入り、すっかり頼もしい先輩刑事となった。執行官に振り回されることもなく、かといって一線を画して押さえつけたりもせず、彼らと友好な関係を築いていた。暗黙の了解のようになっていた執行官のみの会合にも、いつのまにやら参加し、溶け込んでいる。媚びを売るでもなく、自然とそれをやってのけるのが狡噛慎也という存在だった。
今日もてっきり交ざるかと思えば、珍しく断られて、佐々山は、おや、と思う。別に断られるのが初めてなわけではない。狡噛は空気は読めるがけして流されるタイプではない。都合が悪ければきちんとそう言う。だからこれはそう、刑事の勘って奴だ。
「珍しいな。何かあるのか?」
「まあ、な」
はっきりと答える狡噛の声は後ろ暗さはないが、とくに覇気もない。女、ではない。だが、何かある。
「何があるんだ?」
「なんだ?珍しくしつこいな」
詮索されていることに気付いた狡噛が逆に佐々山を揶揄する。あまりプライベートなどの深入りしたことには触れかだらない(但し女性関係は除く)佐々山にしては珍しいことだからだ。
「べっつにー?ただお前に先約があるようには見えなかったからな」
「失礼な奴だな」
容姿端麗。文武両道。人間に使う賞賛の全てに該当するのではと(認めたくはないが)思われる狡噛の唯一の弱点が異性関係だ。彼はモテないわけではない。むしろモテるほうだ。もちろん同姓愛者でもない。それなのに、少なくとも彼が自分の上司に収まってからは、浮いた話を一つも聞いたことがない。同期の宜野座も同じく、だ。
仕事熱心な彼らは異性にかまける時間はないそうだ。なんとも羨ましいこって。
「まぁ御明察どおり、男だがな」
「お前!そっちだったのか・・・!」
「どあほう」
『そっち』がどっちを指しているか正しく読み取った狡噛がきつめのつっこみを入れる。この場合ヘタに刺激すれば、意外に短気なボディーブローが飛んでくるので、大人しくしとくのが吉だ。
「縢のゲームに付き合ってやる約束をしたんだ」
「は?縢ってあの?」
「ああ」
「新人の?」
「ああ」
***
「撰華ちゃん!」
「今度は何ですか?婦女暴行未遂?器物破損?わたくしの弁護料は高いですわよ」
「わぁ!俺の信用まるでなし!」
聞く前から何かやらかした定(てい)で話す彼女の中での自分の評価が伺える。哀しい。
「ちっげぇーよ!アイツだよ!・・・何だっけ?モガリ?」
「『カガリ』ですけど。秀星さんがどうかされたんですの?」
「しゅうせえさんんん〜?」
撰華の返しに、佐々山はそれこそ、この世の終わりのような、苦虫を噛み潰したような顔をする。
「なぁんだよ!なんだってんだよ!いつの間にお前らそんな仲良くなったわけぇ〜?」
ネットリと靴の裏に貼り付いたガムのように嘆く佐々山に、撰華ははっきりと顔をしかめる。彼はこうなると、長くて、しつこくて、しち面倒くさいのだ。
「仲良くなったというか最初に自己紹介したとき名前で呼んで欲しいと言われたからそう呼んでいるだけですわよ」
「ふぅうん。へえぇぇ。あっそーです、かっ!」
面倒臭!
「彼と何かあったんですか?」
よく事情が呑み込めないが、何やら拗ねているらしい佐々山にそう問いかければそっけなく、何もないよ、と返事が返ってくる。何この三十路。
「俺は別に何もねぇよ。でも、こーがみがさー」
「慎也さん?」
こうがみ、という職員は公安局には一人しかいない。
「最近付き合いが悪ぃんだよ。で、理由を聞いたら何かにつけてモガリとゲームだの、スパーリングだの」
「『カガリ』ですわよ」
大抵のことは受け流す自信がある撰華だったが、これはちょっと、なんていうか。
「あははははははは!」
「うおっ!びくったー」
突然笑いだした撰華に、何気にいた六合塚が、「あたし監視官が爆笑するの初めて見ました」と漏らし、それに「俺もだ」と宜野座。
ヒーヒーと止まない引き笑いに滲む涙を指先で拭う撰華が一言。
「光留さんって本当に」
心から言える。
愛すべき×××
(お馬鹿さんですわ)
(馬鹿だな)
(馬鹿ね)
(何だよお前らー!)
最近チーム宜野座が好きです。
縢のゲームに時々狡噛さんが付き合ってたという件を聞いてなんだそれ可愛いなとたぎった結果が新参者に飼い主をとられて拗ねちゃう佐々山さんになりました。何故だ。
縢と佐々山が一緒の空間にいたら絶体楽しいよなーと思います。ちくそー。何で死んだんだよバカぁ。←
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