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「私は・・・私はあきらめんぞ・・・・・・・・・・・・」

 しかし、教主は往生際が悪いようだった。

「この石があるかぎり何度でも奇跡の業で・・・」
「ちっ・・・」

 もう一度教主が賢者の石を使って錬成をしようとしたとき。

 ばちぃっ。

 教主の腕が水風船の弾けるような嫌な音をたてる。見れば、腕と機械の残骸が融合し、生物にはない形へと変貌していた───リバウンドだ。
 教主が獣の断末魔のような悲鳴をあげる。

「う・・・腕っ・・・私の腕が!!」
「な・・・・・・・・・」

 その様子にエドもたじろぐ、“完全な物質”である賢者の石を使えば、リバウンドなど起こるはずがないのに、だ。

「なんで・・・いったい・・・」
「ああああぁああ痛ああああ」
「うっさい!!」
「ぶあ!!」
「うっさいって・・・そんなムチャなー」

 いつまでも声を上げ続ける教主に思考を邪魔され、痺れを切らしたエドが教主に頭突きをかます。

「ただのリバウンドだろが!!腕の一本や二本でギャーギャーさわぐな!!」
「ひィィイイイ〜〜〜〜〜」
「いやいや、エド。腕は一本か二本しかないよ」

 腕がまるまる潰れて平然としているヤツはいない。
 手をパタパタと前後に振りながらルナがつっこみを入れるが、当事者二人はそれどころではないようで、まったく耳に届いてない。

「石だ!賢者の石を見せろ!!」
「ひィ・・・!いっ・・・石!?」

 ピキッ、カラン、サラサラサラ・・・

 エドに言われてやっと思い出したかのように教主が自分の指を見れば、“賢者の石”は指輪から零れ落ち、乾いた音をたてて崩れていった。

「壊れ・・・た・・・」
「わーお」
「どういう事だ!「完全な物質」であるはずの賢者の石がなぜ壊れる!?」
「し、知らん知らん!!私は何もきいてない!!あああぁ、たすけてくれ、お願いだ私が悪かった〜〜〜石がないと私は何もできんたすけてくれェェェ〜〜〜」
「なぁーこれってつまりにせものー?」
「ここまで来て・・・やっと戻れると思ったのに・・・偽物・・・・・・」

 まるで、絶望のどんぞこにつき落とされた悲劇のヒーローのように、エドが崩れ落ちる。気のせいか、背後にスポットライトが見える。ぽん、と慰めるようにルナが無言で彼の肩を叩いた。
 その様子を傍から見ていた教主は、チャンスとばかりに構えるが。

「おい、おっさんあんたよォ・・・」
「はいィ!?」
「街の人間だますわ。オレ達を殺そうとするわ。しかもさんざ手間かけさせやがって。そのあげくが「石は偽物でした」だぁ?」
(・・・エドがキレた)
「ざけんなよコラ!!」
(しかもやつあたりだー)

 凄まじい地響きと共に厳つい神の像が現れた。ルナはこっそりと、物陰に隠れる。

「神の鉄槌くらっとけ!!」

 エドの作った巨大なレト神につぶされそうになって、ペテン教主は気を失った。

「はぁ・・・」
「ハンパ物?」
「うん、こわれちゃったの」
「ああとんだムダ足だ。やっとおまえの身体を元に戻せるかと思ったのにな・・・」
「ボクより兄さんのほうが先だろ。機械鎧は色々大変なんだからさぁ」
「それに裏切られるのはいつものことだ」
「うん・・・」
「しょうがない。また、次さがすか・・・」

 そして、立ち去ろうとする三人の背中にぽつりと呟きが響いた。

「そんな・・・うそよ・・・・・・だって・・・・・・生き返るって言ったもの・・・・・・」

 声がした方に三人が振り返れば、呆然とした様子で座り込むロゼの姿が。

「諦めな、ロゼ。元から───」
「・・・・・・なんてことしてくれたのよ・・・・・・」

 ロゼが恨みがましい視線を向ける。

「これからあたしは!何にすがって生きていけばいいのよ!!」

 教主の言葉が正しいなどとは思っていなかった。それでも彼の導きはロゼにとっては救いであり、彼女を構成する全てといっても過言ではなかった。あぁそれなのに、それさえも失ってしまった。
 エドは背後の建物のように地面に崩れ落ち、顔を伏せて俯くロゼを静かに見つめた。

「教えてよ!!ねえ!!」
「そんな事自分で考えろ」

 傍から聞けば、冷たいとしか思えない言葉がエドによって投げかけられる。だが、上辺だけの温かい言葉よりも実直なそれは、鼓膜を通りロゼの身体の奥まで染み渡った。
 ロゼの目から溢れた透明な涙が、雨のように地面へ落ちる。

「立って歩け。前へ進め。あんたには、立派な足がついているじゃないか」

 それは痛みを、挫折を知っているからこその言葉だった。
 ロゼは空を見上げた。広大で深いそれは、自分をあざ笑うかのように澄んでいて、不思議と心が軽くなった。

 希望も、絶望すらも失ってしまったが、それでもいま自分は生きていて、相変わらず身体は呼吸を繰り返して、心臓は動き続けている。
 いきているということ、それをいつもより強く感じて、ロゼは目を伏せた。その褐色の頬に流れた雫を太陽が寂しげに照らしていた。






「エード!」
「ん?」
「次のマチ、たのしみだね!」

 黄昏の中で笑うルナとその向こうで二人を待っているアルに、エドはつられるように笑った。

「ああ!」

 そして、三人は駅へ向かって歩く。

 彼らの旅路はまだまだ続く。






To be continued…


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