[携帯モード] [URL送信]
2
「さあ どうぞこちらへ」

 ロゼの紹介で案内された一室は不自然なほど広々としていた。

「教主様は忙しい身でなかなか時間をとれないのですがあなた方は運がいい」
「わるいね、なるべく長話しないようにするからさ」
「ええ、すぐ終わらせてしまいましょう」

 四人を案内した男が不意に懐へと手を忍ばせる。

「このように」
「!」

 そこから取り出したものをアルの頭部である冑の右目につきつけそれの引き金をためらう事無く引く。アルの頭はその衝撃でいとも容易く冑ごと後方へと飛んでいく。
 その様子にあっけに取られているうちに、エドとルナもそばにいた教団の服を着た男たちに取り押さえられた。

「師兄!何をなさるのですか!!」

 あまりにも理不尽な発砲と拘束に、ロゼが師兄と思われる男を非難する。

「ロゼ、この者たちは教主様を陥れようとする異教徒だ。悪なのだよ」
「そんな・・・・・・だからといって、こんな事を教主様がお許しになるはず・・・・・・」
「教主様がお許しになられたのだ」

 ロゼの言葉に薄ら笑いを浮かべる表情は決して人々を救うようなものではなかった。

「教主様の御言葉は我らが神の御言葉・・・・・・これは神の意志だ!!」

 『神』という言葉を使えば何もかもが許されるとでもいうように、師兄は狂気染みた笑顔で、エドへとその銃口を向けた。

 しかし、



「へ─────」



 その場に声が響く。



「ひどい神もいたもんだ」



 誰かが男の銃を横から掴む。
 それは紛れも無く先ほど男に頭を吹き飛ばされたはずのアルで。頭部の無い姿のまま、体だけで動いていた。

「んな・・・・・・」

 その、ありえないはずの姿に男が言葉を失っていると、その間にエドとルナが自分を押さえていた人物の服を掴みあげる。
 それぞれが相手を投げ飛ばすのとアルが男を殴りつけるのは同時だった。

「うわわわわわ!!」

 頭を失っても平気で動き回る鎧に、エドを取り押さえていた人の片割れが奇声をあげながら逃げようとする。
 しかし、エドが傍らに落ちていたアルの頭部を持ち上げると、思いっきり振り被り、

 がぃん

「げふ!!」

 思いっきり投げつけた。

「っしゃ!!ストライク!」
「ボクの頭!」
「いい音がしたな」
「そういう問題じゃないよルナ!」

 自身のコントロールのよさを自画自賛するエドにアルが自分のからだの一部をぞんざいに扱われて怒る。ルナは感心したように頷くだけだ。

「どどど、どうなって・・・」

 さきほど確実に頭を打ち抜かれていたはずなのに、人ならば絶対に命を落としているはずだ。
 それなのに、生きて、尚且つ動き回っているという事実にロゼは戸惑う。

「どうもこうも」
「こういう事で」
「で」

 エドがアルの体をノックするようにして鳴らすと、金属特有の空洞音がした。取れた頭の部分から覗く中身は暗い闇しか見えない。
 その光景を見たロゼが、顔に畏怖の表情を貼り付ける。

「なっ・・・中身が無い・・・・・・空っぽ・・・!?」
「やっぱりアルの体は普通じゃないんだな」
「そりゃそうだろ」

 アルの身体のことは以前より知っていたがそれが普通であると思っていたのか。ロゼが恐れおののくのを見て、ルナがようやくアルの身体のおかしさに気付き、得心したように頷く。
 それにエドが呆れたようにつっこみをいれながら、アルの頭を拾いそれを頭部の無い彼に渡す。
 アルはそれを受け取り嵌めながら、声だけで、悲しそうに言葉を紡いだ。

「これはね、人として侵してはならない神の聖域とやらに踏み込んだ罪とかいうやつさ。ボクも、兄さんもね」
「エドワード・・・も?・・・・・・ルナは?」

 見る限りどこも人と変わらないエドに疑問を抱くが、ルナの名前があがらなかったことにロゼが視線を向ける。彼女の不思議そうな眼差しに気付いたルナがゆっくりと首を振りながら彼女の訪(と)いを否定する。その声はどこか困っているようだった。

「わたしは違うよ。・・・う〜ん、たぶんね。それより」

 どうする?という意味を込めてルナが視線を向けると、エドはぼりぼりと頭を掻きながら足下で気絶している男を見た。

「神様の正体見たり・・・だな」

 だがロゼは激しく首を振る。

「そんな!何かの間違いよ!!」
「あーーもーーこのねぇちゃんはここまでされてまだペテン教主を信じるかね」

 エドが呆然としているロゼを振り返り、肩越しに問いかける。





「ロゼ。真実を見る勇気はあるかい?」





 ───きっとその言葉は、真実が残酷であることを知っている者の言葉だ。









[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!