破壊(12骸生誕)拍手ログ (1/4) 「僕には貴女の心を破壊する力があるんですよ」 『六』と刻まれた美しいほど赤い瞳が自分を捕らえてるのを感じながら、彼女はそれでも微笑んだ。恐らく、言葉通り、彼女の精神にいつでも引き金を引けるだろう彼の眼(まなこ)は、強者が浮かべるそれとは違って、とても揺らいでいるように感じられた。 「誰かを傷付けなければ幸せになれない人なんかに私の心は壊せないわ」 勿論ハッタリだ。根拠なんてない。だけど心からの本音だ。 自分以外の人間を巻き込まなければ本戒を遂げることが出来ない人の、なんて小さいことかと思う。人を傷付けてしまうことを仕方がないと諦めている人間の、なんて弱いことかと思う。 何より、彼女は自分一人が傷付くことを恐怖には思わない性質(たち)だった。そのことを、昔、大切な人が教えてくれたものだった。 破壊 (同時に)(それは酷く寂しいことだとも。) *** (2/4) 「世の中に、不満のない人間なんてきっといないよ」 「そうですね。もしいたとしたらよっぽど頭のネジがゆるんでいるか、よっぽど幸せな環境で育ったかのどちらかですね」 「うーん、君は『幸せ』という言葉をいい意味じゃないときに使ってしまうことが多いね」 「それも不満ですか?」 「どちらかというと感想かな?」 君の好きなように感じればいい。 幸福論 (所詮人は主観でしか生きれないのだから) *** (3/4) 「この世ほど醜いものはありません」 見目だけは麗らかな、影のある少女のなりをしている中身は少年がそう毒づいた。 彼が自分以外を批判することなど珍しいことではなかったが、内容が内容だけに、カップに口をつけたまま眉を上げた。割れたりしないようにゆっくりとそれをソーサーにもどし、これまたゆっくりと口を開く。 「随分と不遜な意見ね」 にっこりと微笑みながら言われたそれは、イントネーションこそ彼の意見を聞き流しているようでその実まっこうから否定していた。この二人は基本、水と油のように合わないのだ。 「事実でしょう」 「それを事実と言えるほど、君が世界を知っているとは思えないわ」 またカップを持ち上げ、中身をくるくると回転させるように動かしながら、回る茶葉に視線を落としつつ切り捨てた。六道全てを巡った記憶を持つと自称している彼だが表現が曖昧すぎて判断材料には満たない。自分にとって彼は同じくらいの歳の男の子だ。 「君がいう世界はあくまでも『君の世界』だわ」 彼だけが知る、彼だけの世界。 それをどう表現しようと自由だが、自分の世界まで醜いと言われたくはない。 「狭い世界」 かわいそうに。 残りの一滴(ひとしずく)を飲み干し目の前の麗らかな顔を見れば、見事に引きつっていた。 「では貴女の世界は美しいのですか?」 「さあ?」 「さあって・・・」 「美しいけど醜くもあるし悲しくもあれば暖かくもあるわ」 他にも優しくもあるし嬉しくもあるし痛くもあるし苦しくもある。もっともっと沢山の数えきれない形容詞があるが、どれか一つになど絞れない。 「本当にこの世界が醜いのなら私は大切なものが持てなかったろうし、美しいだけの世界ならそれこそ美しさの意味を知ることはなかったでしょうね」 世界は広いのか狭いのか (知るすべを僕は持たない) *** (4/4) 『世界』を語れるものなどそれこそ『世界』そのものでなければならないだろう。己自身のことですら見えてないことがはばからない世の中で、他人を語る姿など滑稽ではないか。 「この世界が美しいかどうかなんて私にはわからないけど、少なくとも私の世界は幸せだし、他の世界中の人も同じだったらいいなぁとは思うわよ」 「ほぅ他人の幸せを願うとはなんて慈悲深い、そして傲慢ですね。それともアガペーというやつですか。自分の不幸を糧に他人が喜ぶ様を見て至福を感じると」 「ひねくれてるなぁ・・・」 それただのドMだよ。 アガペーとは則ち自己犠牲の精神のことだ。自分が言ったのはあくまで自分の預かり知らぬ処のことであり、大切な人たちとは関わりのない人のことだ。大切な人たちと天秤にかけられればあっさりと浮き上がる。その程度の人のことだ。 どちらかといえば自分は彼に近い考え方の人間だった。他人の為に自分の身を削るなど考えられない。自己犠牲などもってのほかだ。 一歩間違えれば自分も彼のようになっていたかもしれない。 だけれども、出会ってしまったのだ。 大切だと思える存在に。それこそ身を削っても、挺しても、惜しくないと思える存在に。 「そう思わせてくれる人たちを誇りに思うしそんな影響を与える存在に出逢えた自分に感謝するわ」 前振りもなく溢れた台詞に、目の前の房が不思議そうに傾いたのが見えた。 自己愛 (とりあえず貴女がナルシストだということはわかりました) (君に言われたくないんだけど) 掲載日(12/06/19-12/07/31) [*前へ][次へ#] [戻る] |