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獄寺隼人


「ねえ揚羽、聞いた?」
「何を?」
「今日、転校生がくるんですって」
「うちのクラスに?」
「いや、一年だって」
「じゃあ関係ないじゃない」
「そうだけどね。どうやら帰国子女の美形らしいわよ」
「ふ〜ん」


 我が親友ながら、どこからそんな情報を仕入れてくるのやら。と、揚羽はあまり興味なくその話題を聞き流していたが。その転校生とやらが、これから揚羽に、否、弟の綱吉を通じて、彼女に深くかかわることになるなどとは、この時点では予想もしていなかった。









‡標的4‡ 獄寺隼人









(転校生ってあの子のことかな・・・)


 ぼんやりと窓の外を見ながら、揚羽はまだ鮮明な記憶を呼び起こす。先日、体育館の場所を教えた少年は、転校生かと尋ねる揚羽の疑問を否定しなかった。確立は高い。


(帰国子女だったのね)


 珍しい銀髪の髪は、人工とは思えないほど彼によく似合っていた。もしかしたら、地毛なのかもしれない。
 だったら、不良ではなかったのかも、と揚羽は思い直して、すぐにその考えは切り捨てた。彼の服装やつけている装飾品、喫煙などを思えば、第一印象は間違っていないと思う。


「あー。やっべー、資料忘れた」


 教鞭をとっている教師のものとは思えない気の抜けた声で吐かれたそれに、揚羽は目に見えて反応した。窓の外へ向けていた視線を俯かせ、拳を奮わせる揚羽に周囲の生徒は同情半分、面白半分の苦笑を向ける。


「このクラスのいいーんちょーは・・・おっ柚木か」


 自分の名前が挙がったところで、揚羽はガタンと勢い良く立ちあがった。どうみても呼ばれることを知っているタイミングだった。


「藤代先生・・・」


 誰かが「またかよーふじもっちゃん!」という声が、教室のどこかから聞こえた。
 そう、これは一度や二度目ではないのだ。


「どうして毎回、授業の度に忘れ物をしてくるんですか!」


 基本、温厚な揚羽が珍しく声を上げるが、周囲の同級生たちはそれも仕方がないことだと思っている。
 彼(か)の教師は、本当に毎日なにかしら理由を作ってはそのクラスの学級委員長に頼みごとをするのだ。ちなみに去年は彼が揚羽の担任であったが、一学年の学級が終了する最後の日。彼は通信簿を忘れるという大技までやってのけてくれた。


「ごめんなー。たぶん資料室のオレの机の上にあると思うから。はい、鍵」


 至極あっさりした謝罪の言葉に揚羽はガクリ、と脱力する。

 明らかに反省の色は無い。









***









(もー、仕方ないなぁ)


 結局、揚羽はにこにこと手渡された鍵を受け取って、資料を取りに来ている。
 彼の忘れ癖はもう校内でもかなり有名で、あらゆる手練手管で忘れ物をしてくれる彼の性癖は、もはやほとんど病気に近い、と周りは認識している。
 別に、忘れ物を取りに行くこと自体は構わないのだ。しかし、それが毎回となると話は違う。授業の進行にも差し支えるし、何よりも資料を取りに行っている間の授業内容を、揚羽は後で友人に写させてもらわなければならなくなる。友人にも迷惑だし、何よりも二度手間だ。
 大体、終業式のHRなんて通信簿を貰うためにあるようなものだ。何故忘れることができるのか、甚だ不思議である。



 ドン、ドンッ。


 ふと、遠くから聞こえてきた爆音にも似た音に、揚羽は思考を切り上げた。


(気の、せいかな?)


 最近どうにも、新しく増えた家族の為に、神経質になっているように思われる。たとえ本当に爆発音だったとしても、どこかで工事作業をしているのかもしれないし、なにより必ずしも綱吉が関係しているとは限らないのだ。
 気にしない、気にしない。と、歩いていると、今度は明らかに聞き覚えのある音がした。


(じゅ、銃声・・・!)


 十中八九、直感が警鐘を鳴らしている。明らかにこの音は、彼(か)の家庭教師によるものだろうと思った。









***









「ツナ!」
「姉さん!」
「どうしたの?何なのこの騒ぎ」


 半裸のままの綱吉に先ほど道すがらに拾った制服の上着を着せながら、揚羽は見覚えのある顔を見つけた。


「あなた、球技大会のときに見にきてた子よね?」
「はい、そうです!」


 ニコニコと、先日とは全く違った対応に揚羽は逆に戸惑いを覚え、軽く首を傾げた。


「どうしてツナと一緒にいるの?」
「えーと・・・彼、オレのクラスに転校してきたんだ」
「あっそうだったの!」


 綱吉と友達になってくれる人物なら悪い人間はいないと本気で考えている揚羽は、弟曰く新しいクラスメイトに暖かく微笑みかける。


「よろしくね。わたし、ツナの姉の、柚木揚羽です」
「はい!オレの名前は獄寺隼人といいます。よろしくお願いします、お姉様!」
「お、お姉さま・・・?」


 獄寺と名乗った少年が揚羽に向かって体を90度に折り曲げる。
 辞書の、お辞儀という部分の挿絵にしてしまえそうなほど見事な礼だった。


「10代目のお姉様だったんすね。そうとは露知らず、先日は失礼しました」
「10代目?」
「ボンゴレの10代目は沢田さん以外にありえません!これからはこの不肖、獄寺隼人が10代目をお守りいたしますので、ご安心してくださいお姉様!!」


 この状況はなんだろう。と、揚羽が呆気にとられていると、タイミング悪く、下卑た笑い声が間に挟む。


「ありゃりゃサボっちゃってるよ。こいつら」
「サボっていいのは3年からだぜ」
「何本折って欲し〜い?」
(ゲッ。ヤ、ヤバイよ・・・)
(東センパイと珍田センパイと神無月センパイだ・・・)


 唐突に登場した不良の上級生たちに、綱吉と揚羽はそれぞれ同じように顔を青褪めさせる。
 揚羽はすぐさま綱吉を連れて去ろうとしたが、それを察してか不良の一人が彼女の細い腕を強引に掴んだ。


「そっちのオンナノコはオレ達と一緒に遊ぼうぜ〜」
「いっ・・・!」


 無遠慮に締め付けられる腕が、みしりと軋んだ音を立てて揚羽は痛みに顔をしかめるが、苦痛に歪む揚羽の表情も気にせず、そのまま自分たちの方へ引き寄せようとする不良たち。
 しかし、その腕が不意に解かれる。


「この方に手を上げるのはオレが許さねえ」
「あー?なんだてめぇ・・・」
「あ!えっ・・・と」
「獄寺君!」


 揚羽の腕を掴んでいた不良の手を払い除け、自分の後ろに彼女を隠すようにして獄寺が彼らの前に立ちはだかった。


「オレに任せてください」
「!」
「?」


 頼もしくそう言った彼は、懐から茶色い筒状のものを取り出して、それを構えた。いつの間に銜えてたのか、紫煙の香りが辺りを包む。
 彼が何をしようとしているのか気づき、綱吉が顔を更に青褪めさせ、わからない揚羽は首を傾げた。


「消してやら───」
「ちょっ、まってよ獄寺君!ダイナマイトはだめだって!!」
「ダイナマイト!?」


 綱吉の言葉に含まれる聞きなれない単語に、揚羽はやはり綱吉同様顔を青褪めさせる。


 その後、すぐに揚羽は彼の手の中身の正体と、さきほどの音の根源を知ることになる。
















 

「あの〜獄寺くん、だっけ?」
「はい!何ですか、お姉様?」
「・・・・・・その、『お姉様』は、ちょっと・・・」
「そうですか?では今日から『姐御』と呼ばせていただきますね!」
(えー!?強制!!?)
(悪化したっ!!)


「よろしくお願いします10代目!姐御!」


 ツナ、初めてのファミリーゲット!!!

















やっと夢らしくなってきたような・・・?


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