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死ぬ気弾使用不能


 持田を倒してから、綱吉に対する周りの態度は急変した。 


「沢田だ!」

(まただわ・・・)


 今日で何回目かしら、と。遠巻きから送られてくる怯えたような視線に、揚羽はいい加減ため息をついた。


「ツナオス!」
「おはよ」


 しかし、不気味がる者もいれば、中には一目置く者もいた。
 ダメツナと呼ばれることも少なくなったようだし、満更でもなさそうな弟の表情に、揚羽はまぁいいか、と空を仰いだ。









‡標的3‡ 死ぬ気弾使用不能









「ずいぶんと有名になっちゃったわねツナ」
「うん、照れくさいけど・・・ちょっぴりうれしいや」


 へへ!と照れ隠しに鼻の頭をかく綱吉に、揚羽は優しく微笑みかける。


「沢田〜〜〜」
「ほらツナ、またご指名よ」
「お、おはよっ」


 大声で名前を呼ばれながら駆け寄られることなんて初めての綱吉は少し緊張気味に返事をした。
 しかし、そのクラスメイトの吉田はどうやら綱吉に頼みたいことがあったらしく、挨拶をするや否や、両手をつき合わせて頭を下げた。


「あのさっおまえに頼みがあるんだ!」
「え?オレに頼み?」
「じつは今日の球技大会のバレーなんだけどレギュラーが欠けちゃって、おまえに出てほしいんだ!」
「オ・・・オレがぁ?」
「あらあら」


 最初は困った顔で渋っていた綱吉だったが、すぐに何かに気づいたように承諾した。まかしとけ、と自信満々に言う弟のらしくない台詞と態度に、揚羽は首を傾げた。


「よかったの?」
「何が?」


 綱吉のクラスメイト、吉田がいなくなってから揚羽は士気を高揚させているらしい綱吉に問うた。


「バレー。あなた苦手だったでしょう?」
「うん。でも、リボーンに死ぬ気弾を撃ってもらえばなんとかなると思うんだ!」


 まるで名案を思いついたかのように言う綱吉に、揚羽は眉を下げた。


「姉さん?」

「それは、誠意じゃないよ」

「へ?」


 ぽつり、と溢された進言に、綱吉は間抜けな声をあげた。揚羽は意を解してない綱吉にも構わず、さっと身を翻して去っていった。


「じゃあね。頑張って」
「あ・・・」


 それだけを言い残して、綱吉はぽつんと一人その場に取り残された。引き留めようと上げかけた手が不自然な形で止まる。何故か、かける言葉が見つからなかったのだ。



(どういう、意味だろう?)



 がんばって、という言葉が今も耳に残っている。
 その声はひどく固くて、少しだけ冷たかった気がした。









***









 揚羽はかいた汗をタオルでぬぐいながら体育館の影で休んでいた。


(ツナ・・・どうしてるかな)


 揚羽は球技大会ではバスケットボールに参加していた。よって会場の違う綱吉の勇姿は見ることができなかった。否、試合の合間に見に行くことは可能であったが、なんとなく見に行く気にならなかった。
 目を軽く伏せて、朝に別れた弟を思う。今頃、ヒーロー扱いされているだろう弟の姿を思い浮かべて、揚羽は少しだけ寂しくなった。


(・・・?・・・・・・・・・煙草の、香り?)


 その時ふと、硝煙のような香りがして揚羽は視線を燻らせると、煙草を銜えた少年が体育館の中をきょろきょろと覗き込んでいるのが見えた。揚羽は声をかけてみた。


「ねえ、君」
「あぁ?」


 声をかけただけなのに蛇を射殺せそうな視線で睨まれて揚羽は身を竦めた。


「・・・なんだよ?なにか用か」
「いや、誰か探してるのかなと思って」


 怯えながらもそういった揚羽の言葉に、銀髪の少年は口を噤んだ。どうやら、その通りだったらしい。


「・・・・・・・・・し・・・」
「え?」
「・・・『沢田綱吉』は、どこだ?」


 しばらくして、小さく呟かれた言葉を揚羽は聞き逃した。聞き返せば、もう一度小さな声で少年は答えた。その囁かれた言葉は揚羽のよく知る名前だった。


「(ツナの知り合いかな?)ツ・・・沢田ならバレーにでてるから第一体育館じゃなくて第二体育館にいるわよ?」
「それはどっちだ?」
「え?あっち、だけど・・・・・・」
「そうか」
「あ、ちょっと!」


 揚羽が指した方向に去ろうとする少年に、思わず引き止めた。憮然とした表情で少年が振り返る。


「場所、わからないんでしょ?連れて行ってあげる」


 そう言って有無を言わせず前を歩けば、少年が小さく舌打ちをして着いてくるのが背中越しにわかった。


「ねえ君、転校生?」
「・・・何でわかった?」
「だって並中の制服着てるのに、体育館の場所知らないみたいだから」


 揚羽の言葉に納得したのか、少年がまた小さく舌打ちをするのが聞こえた。


(ガラが悪いなぁ)


 先導しながら、揚羽はそう思った。煙草といい銀髪といい、弟の知り合いとは到底思えなかった。では何故転校生の彼が綱吉に用があるのか、少しの興味はあったが、別段聞き出そうという気にはならなかった。

 嫌な予感しかしなかったからだ。


「ここが第二体育館よ。じゃあね」


 結局あれから一言も言葉を交わすこともなく、目的地に到達した。
 揚羽が短く説明して去ろうとすると、初めて少年のほうから話しかけられた。


「おい」
「?なあに?」
「・・・・・・その、・・・悪かったな、わざわざ」


 少年の以外な台詞に、揚羽はきょとんと目を瞬かせた。くすり、と小さく笑みをこぼせば、むっと少年が形のよい眉を寄せるのが見えた。


「どういたしまして」


 それ以上少年が気を悪くする前にと、揚羽は笑って言った。


 どうやら、悪い子ではないらしい。









***









 揚羽は空を見上げ、心の中で呟いた。


(どうしようかな・・・)


 綱吉の試合を見ようか見まいか、体育館の周りをふらふらとしながら悩んでいると、中学校には不釣合いな声がした。


「ちゃおっス」

「学校は関係者以外立ち入り禁止よ」

「かてえこと言うな」


 隣からかけられた不自然な声に、揚羽は振り向きもせずに小さく笑ってこたえた。視線は相変わらず空へ向けられている。


「ツナに死ぬ気弾を撃ったの?」
「撃ってねーぞ」
「・・・どうして?」
「死ぬ気弾は撃たれた時に後悔がないと復活しないんだ」
「そう」


 揚羽の返答が若干、冷ややかなものであることに気づいて、リボーンは根が下がった眉を軽く上げた。


「まあ、使えたとしても撃つ気はサラサラないけどな」


 その言葉に、やっと揚羽はリボーンを見て、笑った。


「よかった。もし死ぬ気弾を撃ってたら、わたしリボーンちゃんを軽蔑してたかもしれない」


 リボーンがニッと不敵に口元を歪めた。


「おまえも来い」


 ぴょいっと揚羽の肩に飛び乗って、事も無げにリボーンが言った。









***









 試合はとても酷いものだった。死ぬ気弾を撃たれていない綱吉は、ボールが飛んでくるたびに笑えない失敗を繰り返した。

 第一セット終了の笛が無常にも響き渡る。

 ヒョコヒョコと足を引きずって体育館をでてくる綱吉に、また逃げる気だろうか、と揚羽は綱吉に駆け寄ろうとしたが、すぐにその足は止まった。

 体育館からでてきた綱吉の顔は、とても真剣だった。


「帰んねーのか?」


 いつの間に彼に近づいていたのだろうか、自称・家庭教師が顔を洗う綱吉の背後から尋ねた。


「ああ」


 やっぱりその声はとても真剣そのもので、揚羽は「じゃあな」と綱吉が去っていくまで、結局声をかけることができなかった。


「揚羽ちょっとこい」
「え?うん」


 綱吉の試合も気にはなったが、冷たい銃口を向けてくる家庭教師に逆らえるわけもなく、揚羽はリボーンのあとを大人しくついていった。


「ちょっと足おさえてろ」
「どうするの?」


 校舎のベランダから身を乗り出してライフルを構える赤ん坊に、揚羽は言うとおりにしながらも訊ねた。


「死ぬ気弾は使えないんでしょう?」
「・・・・・・・・・」
(シカトですか・・・)


 揚羽の問いにはまったく答えず、銃のスコープを覗き込んでいる赤子に、そっとため息を吐いた。


「わかればよし」
「え?」

「くらえ!!」


 突然声を出したと思ったら、耳をつんざくような銃声が二発響き渡った。









***









 全身傷だらけのクラスメイトたちを見て、綱吉は姉の言葉を思い出した。


 なんだかとても恥ずかしかった。





―――それは、誠意じゃないよ。





 調子に乗って安請け合いしたことも、みんなが努力してやってきたことを死ぬ気弾で楽々とやろうとしたことも・・・





―――それは、





 彼らの真剣に対してとても失礼なことだった。









***









「ジャンプ弾〜〜〜!!?」


 それからの綱吉の快進撃は凄まじかった。それまでの失敗を帳消しにするほどの活躍ぶりに、誰もが彼を英雄と褒め称えた。

 それは先ほどリボーンが綱吉の太ももに打ち込んだ、死ぬ気弾の別の顔による効果だった。

「なんでそんなスゲーもん隠してたんだよ?死ぬ気弾しか教えてくれなかったじゃないか」
「ツナが弾をあてにすると思ったから言わなかった」
「!」
「でもツナ、今日弾をあてにしなかったからな」
「・・・・・・・・・リボーン」
「・・・リボーンちゃん」


 綱吉と揚羽はそれぞれリボーンの教師らしさの片鱗に胸を打ち震わせていたが、彼自らがそれを即座に否定した。


「つってもそれはたいした理由じゃない」
「?」
「撃ってないと腕がなまるんだ。これでガンガン撃てるぜ」
(めちゃめちゃいいカオしてる〜〜〜っ)
(活き活きしてるわね・・・)


 リボーンの微妙な表情の変化がわかるようになってきた綱吉と揚羽であった・・・








 それでも、揚羽のリボーンを見つめる目は、とてもにこやかで、暖かいものだった。









  がでるか、
がでるか。
「リボーンちゃん・・・」
「ん?なんだ」
「リボーンちゃんは本当に一流の家庭教師ね」
「あたりめーだろ(ニッ)」

(にこにこ)

















リ、リボーン寄り?

次は獄寺だ・・・!(もうでてるけど)


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