69祭り残骸(1/5)拍手ログ
「偽善ですね」
骸からの月並みな糾弾に、少女は、ふ、と小さく笑った。
陳腐な挑発だ。
そんな使い古された非難は彼女にとって柳を揺らす微風も同然だった。
「確かに」
少女は悪びれもせずに言い放った。
「私があの子のことを想ってすることはただの自己満足だわ」
あっさりと自分の言い分を受諾した少女に、骸は満足そうに頷いた。愚かしいほど柔順な魂に、情けをかけて微笑みかける。
「えぇ、そうでしょうね」
「でも」
しかし彼女に、悪びれる必要性などはなからない。
「あなたがマフィアを撲滅したいっていうのもあなたの自己満足よ。私ばかりが偽善者みたいに言わないでよ」
自己満足も、偽善も偽悪も、人にとってはあたりまえで誰にでもある衝動である。それを責められる要素は誰にもなく、万象にある。どちらにせよ偽者になるのなら善を選んだ。ただそれだけだ。共感こそすれ、責められるは慮外であった。
意外な少女による責苦に、骸は目を瞬かせた。顎に手を置いて、感慨深く首を捻る。
「ふむ。自己満足ですか。・・・そうですね、そうかもしれない」
言われてやっと気付いたのか、指摘してくれた少女ににっこりと形ばかりの感謝の笑みを向ける。
「しかし、まさか偽善者と呼ばれるとは・・・・・・そんなこと言われたのは生まれてはじめてですよ」
非人道。無慈悲。などの非難はよく浴びたが、まさか自己満足と罵声をかけらるとは夢にも思わなかった。ましてや偽善者などと呼ばれるとは。
「クフフ・・・やはり、貴女は面白い」
どこにでもいる普通の少女のようでいて、やはり、彼女は特別なことなどないただの凡庸な人間だ。
別段、心魅かれる要素などどこにもない。
しかし、彼女はここぞというときに決まって、骸の予想を遥かに超える。発言も行動も。
聖人君子のような優しい言葉をかけるでもない。人知を超越した動きをするわけでもない。
彼女がすることは誰にでもできる当たり前のことだ。
しかし、その当たり前のことを、彼女は当たり前でない場面で使うことが多々ある。それが面白い。
正しくてもそうでなくても己の醜い部分を指摘されれば、普通は取り繕うか、愚かな自分に気付かされた哀しみに浸る。だが、彼女は逆に相手を咎める。自分が正しいのだと主張するでもなく、彼女は自分を特別にしようとしない。それが、あたりまえなのだ、と。なぜ、それが醜くなるのか、と。
骸にはそれが新鮮に思えた。
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