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ロシアンルーレット


「ただいま〜」
「揚羽ちゃん揚羽ちゃん!」
「どうしたのお母さん?」
「ツッ君にもとうとう春が来たのよ〜」
「へ?」









‡標的7‡ ロシアンルーレット









「ツナが彼女を連れて来た?」
「そうなのよ〜しかも!すんっごく!可愛い子なの!」


 一句一句区切って言う当たり、相当可愛らしい子だったのだろう。
 ツナの連れて来るような子で、そこまで言わしめれる人物を揚羽は一人しか知らない。


「もしかして・・・その子、京子ちゃんって言わなかった?」
「あら?揚羽ちゃん知ってるの?そうよ!笹川京子ちゃんって名乗ってたわ♪」
(やっぱり)


 家に連れてくるぐらい仲良くなったのか。それは良かったと思う。しかし、流石に『彼女』と言うのはありえないだろう。死んで初めて告白するようなヘタレな綱吉に、すぐさま彼女とそんな関係が築けるだろうかと考えれば答えは明白だ。『彼女』はきっと、母の勘違いか何かだろう、と。揚羽は推察した。


「あ。お皿、京子ちゃんの分も用意しなくちゃ」


 人をもてなすことが好きな母らしい言葉だ。きっと晩御飯に彼女も呼ぶつもりなのだろう。あとで妹想いな彼女の兄に、連絡をしなくてはと思う。心配させてはいけない。


「じゃあ、わたし取ってくるね」
「ありがとう。揚羽ちゃん」


 にっこりと嬉しそうに微笑む母に同じように返して、揚羽は台所へと向かった。









***









 食器棚から客人用のお茶碗やお箸を取り出していた揚羽は、リビングから突然に聞こえてきた破壊音に、持っていた皿を思わず取り溢しそうになる。


「な、何・・・?!」


 揚羽が疑問に喘ぐのと、リビングから母の悲鳴が聞こえるのはほぼ同時だった。揚羽は慌ててリビングに駆け込む。
 そこで目にしたものに驚愕した。


「さあ撤回してください」
「何やってるのっ京子ちゃん!?」
「ね、姉さん!い、いや・・・あの、これは・・・・・・!」


 そこには京子が奈々の胸倉を掴み、持ち上げている姿があった。
 いくら奈々が標準よりも小柄で軽いと言っても、華奢な京子の腕では大人一人を軽々持ち上げるほどの腕力は無いはずだ。しかし、彼女は今、あられもない下着姿で、額にゆらゆらと淡い橙の炎を灯していた。
 つまり、いつかの綱吉と同じ“死ぬ気”の状態だったのだ。
 何故、彼女が“死ぬ気”なのかはわからなかったが、今の状態が続けばよくないことはわかった。奈々が泡を吹いて気絶してしまうのを見て、揚羽は顔を青褪めさせる。


「京子ちゃん、お願いやめて!」


 今にも泣きそうな顔で京子に追いすがる揚羽。しかしすぐに「邪魔をしないでください」と、京子によって押しのけられる。彼女にとっては軽く押しやったつもりなのだろうが、死ぬ気状態の人間の力はたとえ女子供でも凄まじい怪力となる。揚羽の身体は軽々とふっとばされて、壁に叩きつけられてしまった。


「う・・・ぁ・・・・・・」
「あわわわ、どーしよーっ」


 強かに打ちつけた背中に、揚羽は痛みに呻いた。その様を見て、綱吉が慌てふためく。


「しかたない」


 それらの一部始終を見ていた、家庭教師がやれやれと肩を竦める。まったくもって男らしくない教え子に溜め息をつきたくなった。果敢にも立ち向かった揚羽のほうがよっぽど勇敢だったといえよう。


「あれを使うしかないな」


 どこからともなくアタッシュケースを取り出す。どうやらその中に“あれ”とやらが入っているようだ。


「リバース1t」


 開いたその中からはトンカチと言うには大きく、大槌と言うには足りない、小さなハンマーが入っていた。


「ただのハンマーじゃないか」
「1tある」


 そんな小ぶりのハンマーで何が出来る、と綱吉は不思議がるが、次の家庭教師の言葉に目を剥く。まさか、と一瞬よぎる考え。しかし、その槌を床に置いた瞬間、ズンと重々しい音をたててその部分だけが沈む。
 どうやら嘘ではないらしい。









***









「ふうん・・・で?」


 結局、そのリバース1tとやらのおかげで、京子から死ぬ気弾は摘出され、彼女にとっての死ぬ気体験は夢となったらしい。


「どうしてこんなことになったのかしら?」
(めちゃくちゃ怒ってるー!)


 にっこりと深い、深い、笑みを浮かべる揚羽は目が笑っていない。



 怒ってる。しかもかなり。



 何故か正座をして彼女と向き合いながら、綱吉は自分に非は無いはずなのにかなり居た堪れない気持ちになっていた。
 小言はよく言われていたが、彼女が本気で怒ったところはあまり見たことがなかった。普段温厚な人間が怒ると怖いと聞くが、それ以上だ。脅威だ。とてつもない威力だ。もはや兵器に近いと言ってもいいだろう。
 しかし、彼女の怒りももっともだと思った。京子は半裸のまま気を失っているし、母はいまだ目を覚ましていない。家も半壊状態で、無事な家具を探すほうが大変なほどだ。壁には人型に穴まで空いている。


「じつはリボーンがロシアンルーレットをやろうっていいだして・・・」
「ロシアンルーレット?」
「京子もノリノリだったぞ」


 揚羽の記憶が正しければ、ロシアンルーレットとは一発だけ弾を装填した銃を自分に向けて順番に撃っていくゲームだったはずだ。


「ふうん・・・で、そのとき使った銃に死ぬ気弾を装填したのね」
「よくわかったな」


 ロシアンルーレット、というたった一つのヒントだけで、そこまで正確に推察できるのは流石としか言いようがなかった。
 しかし、それは彼女の機嫌を沈める解決にはならない。
 とりあえず、ここに至るまでにあったことを全て話した。京子が死ぬ気になったのは、自分と恋人だと奈々に勘違いされたことが嫌だったからだということまで。


「・・・はあ。とりあえず経緯(いきさつ)はわかったわ。ツナはお母さんを二階の寝室に運んで。わたしは京子ちゃんを家に連れて行くから」
「わ、わかった」
「リボーンちゃんは───」


 くるりとリボーンに向き直り、揚羽はまた破壊力のある笑顔を浮かべた。


「家の修理、お願いね?わたしが帰ってくるまでに」
「・・・・・・・・・」



 君 の 所 為 な の ね ?



 目がそう語っていた。


(怖ッ!?)


 例え一室といえど、ここまで破壊しつくされた部屋を元通りにするのは骨がいる作業だ。一時間やそこらでは無理だろう。
 しかし、彼女の目はやはり笑ってない。・・・本気だ。


 にこにこと微笑む彼女。沈黙する家庭教師。


「お・ね・が・い・ね?」
「・・・・・・ちっ」


 勝敗は明らかだった。











 〜おまけ〜


 揚羽が京子の家から戻ってきたとき、家はすっかり元通りになっていた。


「どうやって元に戻したの?」
「それがいつのまにか、オレも母さんの介抱してたから・・・」


 姉弟揃って首を傾げていると、某家庭教師様は優雅に珈琲を嗜みながら、ニヤリと片唇を吊り上げた。


「ボンゴレの技術をもってすれば簡単だぞ」
(ボンゴレって最終的に何がしたいのかしら?)


 イマイチよくわからない組織だと揚羽は改めて思った。









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あきゅろす。
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