入ファミリー試験
揚羽は中学校に相応しくない姿を見つけ、声をかけた。
「ラーンボちゃん♪」
「ぐぴゃ!」
‡標的9‡ 入ファミリー試験
てってって、と廊下を歩いていたランボは突然視界を遮られて、潰されたカエルのような悲鳴をあげた。
「ふふ。驚いた?」
「あ!揚羽だもんね!」
「ランボちゃんどうしてここにいるの?」
『ここ』というのは並盛中学校のことであり、言わずもがな、5歳児のくるところではない。
「5歳の子は中学校に入っちゃダメなんだよー?」
ぷにぷにとした頬を軽く突付きながら言うと、ランボはくすぐったそうに身を捩りながら笑った。
「んふふー、ランボさんはー特別だからーいいんだもんねー!!」
キャラキャラと笑いながら、ランボは揚羽に飛びついた。かなりご機嫌な様子だ。
ふと、ランボの背中にある荷物に気付き、揚羽は訊ねた。
「ランボちゃん。この荷物はなあに?」
「これねー!イタリアのボスが、がんばってるランボさんに武器を送ってくれたんだもんね」
リボーンを殺すためなんだよ!とキラキラとした表情で言われ、揚羽は遠い目をした。
(5歳児のセリフじゃない・・・!)
身体に張り付いたままのランボを上手く抱え直して、揚羽は校門に向かうべく足を進めた。ランボをなんとか言い含めて帰ってもらおう。そうしよう。
「学校には怖ーい人がたっくさんいるから帰ろうねー」
「そんなヤツ怖くないよ!」
ランボさんがやっつけて揚羽をまもってやるもんね!と、内容の殺伐さを省けば可愛らしいセリフをのたまう幼児に、揚羽は微笑ましくなるが、知らないことほど恐ろしいものはないと思う。
「リボーンちゃんならたぶん家に居るんじゃないかなー?」
だから家に帰ろう?と誘導したい揚羽の心情とは裏腹にランボは首を横に振った。
「ママンに聞いたら、リボーンは中学校に行ったって言ってたもんね!」
だからオレっちも来たんだよ!と言うランボのセリフに揚羽は、おや、と思う。
しかし、彼(か)の家庭教師様は、所構わず修行だと言っては弟に無理難題を吹っ掛けているので、なくはないかと納得する。
だったら尚更早めにお帰り願おう。これ以上ここに居ると厄介事が増える一方だ。
揚羽は校門までの近道として非常口である昇降口を通ろうとした。
しかし、それが間違いだった。
世の中、嫌な予感ほどよく当たるというもので。まさしく、その『厄介事』の範疇に出くわしてしまったのだ。
「あー!」
「あ!ランボちゃん危ないわよ!」
ランボは揚羽の腕から飛び降り階段の手すりに上った。
黒いスーツ姿の赤ん坊を目に留めた為だ。
「ガハハハ、リボーン見──っけ!!」
「え?」
ランボの言葉に漸く手すりの外を見れば、確かにリボーンと最愛の弟、そして最近彼と友達になった獄寺と山本の姿があった。リボーンが何やら小さな弓のようなものを次々と射ち込んでいて、ボウガンという武器の存在を知らない揚羽にも、それはとても危険なものに見えた。
ランボはというと、相変わらずリボーンに存在を忘れられていて(というか認識すらされていない)、涙目になっている。
「たいへん止めなくちゃ!」
半泣き状態のランボも気にかかったが、おとなしくしててね、とちゃんと聞き入れたのか甚だ不安だが、それだけを言い残して揚羽は急いで階段を下りていった。揚羽たちが居たのは最上階。降りるのにかなり時間がかかるが仕方がない。
すると、やはり、ランボのほうからミサイルのようなものが飛び出し、綱吉や山本の上に降り注いだ。
揚羽は階段の途中から身を乗り出し、ランボのいるあたりを見上げると、本人の身の丈ほどもある武器を構えている仔牛の姿があった。
「こ、こらー!ランボちゃん!そんなもの使っちゃダメでしょう!?」
もしかして、先ほどのランボの荷物に入っていたものだろうか。あんな危険すぎるものを幼い子供にもたせるなんて、と揚羽は憤慨した。知っていたなら、さきほど無理をしてでも取り上げていたのに、と。
「あー!もう!」
そのまま戻るわけにもいかず、とりあえずリボーンの攻撃を止めさせなければ、と揚羽は階段を急いで降りていく。
その間にも、攻撃手に獄寺が加わるなど、更に綱吉たちの危険度は増していった。
また突然、空に稲光が差したと思って校舎を見上げれば、そこには5歳児ではなく、10年後のランボがミサイルのようなものを構えて立っていた。
揚羽はさあ、と顔を青褪めさせて、残り5、6段の階段を下りる時間すらも惜しい、と飛び越え、リボーンの元へ走った。
***
「リボーンちゃん!」
揚羽の切羽詰った声に、リボーンはこれまでか、と肩をすくめる。
これ以上のことをして揚羽に泣かれでもするなら、彼の「女には優しく」というポリシーに傷が付いてしまうだろう。
それに、揚羽は怒らせるとかなり面倒なのだ。泣かれるならまだ可愛いものだが、怒らせたが最後、彼女は無言で制裁を加えてくる。正直言って敵に回したくないタイプだ。
知りたかった山本の運動能力も大体は把握できたのだし。上々だろう。
「最後(しめ)はロケット弾だ」
言って、バズーカを構えるリボーンの表情はこの上なく愉しそうだった。
***
「ツナ!!だ、大丈夫!?」
あたり一面に広がる爆煙の中から生還した弟とその友達に、揚羽は恐る恐る近づいた。
「ふ──あぶね──あぶね──」
「山本が引っぱってくれたおかげで、た・・・助かった──」
「山本くん!本当にありがとう!」
「いーっスよ!困ったときはお互い様っスから!」
なんてお礼を言えばこの感謝の気持ちが届くのだろうか。山本の快活なセリフに、揚羽はこの上なく感激した。
「試験合格だ。おまえも正式にファミリーだぞ」
「サンキュー」
「試験?」
近頃よく聞く『ファミリー』という単語に、揚羽は首を傾ける。
「試験ってなんのこと?」
「入ファミリー試験のことだ。これをクリアしなくちゃ正式にファミリーとはいえないからな」
「ちょ、ちょっと待って!それじゃ、山本くんにもボンゴレファミリーのこと教えちゃったの!?」
「そうだぞ」
あっさりと頷くリボーンに揚羽は頭を抱えたくなった。
イタリアのマフィアだと知ってて尚、彼は入ファミリー試験とやらを受けたのだろうか。勇者すぎる。
「ま。山本は遊びだと思ってるみてえだがな」
「えっ?遊び?!」
てめーは鼻毛だ!なにぃ、だったらおまえは鼻クソだ!という訳のわからない言い合いをしている獄寺と山本を見て青い顔をしている綱吉の横顔に、揚羽はそっと溜め息をついた。
・・・それはそれで、先が思いやられる。
***
「なぁなぁセンパイはやんないんスか?」
「へ?」
「何を?」
山本の唐突なセリフに、姉弟は揃って大きな目を瞬かせた。
「マフィアごっこ」
(でたー!?山本的天然!!)
「お!野球馬鹿にしてはいいこと言うじゃねーか。そうっスよ、せっかくだから姐御もボンゴレに入りましょう!」
(この人ノリノリだ───!)
「あの・・・マフィアは、ちょっと・・・」
正直言って暴力事が大の苦手な揚羽は、マフィアに加わるのは遠慮願いたかった。
「揚羽はファミリーには入れねぇ」
「!」
「な、何でっスか!?リボーンさん!」
誰彼構わずすぐにファミリーに引き入れようとするお目付け役にしては珍しいことだった。
「ボンゴレは最強マフィアだぞ?足手まといは必要ない」
(でた!リボーン美学!)
(がーん・・・!)
「はは!けっこーきびしいのな、この遊び!」
「残念っス姐御!!」
マフィアの一員になるのは嫌だったが、リボーンのあまりにも断固とした拒否の台詞に揚羽は逆にショックを受けた。
綱吉としては、大切な姉まで巻き込むことにならないですんで、ほっと胸を撫で下ろした次第ではあるが。
無い物ねだりだと、
人は言う。
(そうだね、ほんとうにそうだ)
はい!これで拙宅のヒロインはファミリー加入ならずです。
ありきたりな展開が三度の飯よりも好きなくせに、王道から四次元に逸れていく管理人です。(こーの捻くれ者!)
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